2026年 国家総合職 問題28
民法契約総論・売買・贈与
【No. 28】同時履行の抗弁権に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者の一方が、相手方が履行を提供するまで自分の債務の履行を拒めるという権利です(民法533条)。互いの債務が対価として結び付いている以上、一方だけが先に履行させられるのは公平でない、という考え方に基づいています。
そのため、この権利は契約の当事者の間の公平のためのもので、契約関係にない第三者には主張できません。また、同時履行の関係にある間は、履行しなくても違法ではないので、履行遅滞の責任も生じません。どの債務が同時履行の関係に立つかも、どうすれば当事者の間が公平になるかで判断します。
【民法 第533条】
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
1.誤答
Aは、所有する家具甲の修理をBに依頼し、家具甲をBに引き渡した。その後、Aは、家具甲の所有権をCに譲渡した。Bによる家具甲の修理が完了したものの、Aから修理代金が支払われていない場合、Bは、同時履行の抗弁権を主張し、Cからの家具甲の引渡請求を拒むことができる。
要点同時履行の抗弁権は、契約当事者でない第三者には主張できない。
妥当でない。同時履行の抗弁権は契約の当事者の間でだけ主張できる権利なので、修理代金の支払を受けていないBも、家具の所有権を譲り受けたCに対しては、同時履行の抗弁権を主張できません。Cの引渡請求を拒むには、物権である留置権(民法295条1項)によることになります。
留置権は、物に関して生じた債権を持つ者がその物を留置できる物権なので、だれに対しても主張できます。契約上の公平のための同時履行の抗弁権とは、及ぶ範囲が違うのです。
【民法 第295条第1項】
(留置権の内容)
第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2.誤答
Aは、所有する不動産をBに賃貸する際、敷金をBが支払うことで合意した。その後、当該賃貸借契約が終了したものの、Bは、依然として当該不動産を占有している。敷金契約は、賃貸借契約に付随するものであるから、AがBに当該不動産の明渡しを求めた場合、特別の約定のない限り、Bは、敷金が返還されるまで、Aによる当該不動産の明渡しの要求に応じないと主張することができる。
要点敷金の返還と建物の明渡しは同時履行の関係に立たず、明渡しが先である。
妥当でない。判例は、賃貸借の終了に伴う賃借人の明渡債務と賃貸人の敷金返還債務は、特別の約定のない限り、同時履行の関係に立たないとしました(最判昭49.9.2)。現在の民法も、敷金の返還は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときにするとしています(622条の2第1項1号)。
敷金は、明渡しまでに生じる損害金など、賃貸借に関して賃貸人が取得する一切の債権を担保するものです。明渡しが済まないと返す額が確定しないので、明渡しが先になるのです。
【最判昭49.9.2 裁判要旨】
家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。
【民法 第622条の2第1項】
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
(略)
3.誤答
AとBは、Aが所有する商品甲とBが所有する商品乙を交換する契約を締結し、契約の1週間後にAの自宅で交換を行うことを合意した。1週間後、Bは、商品乙を引き渡していないにもかかわらず、Aに商品甲を引き渡すよう請求したため、Aは、同時履行の抗弁権を主張し、Bに商品甲を引き渡すのを拒んだ。この場合であっても、契約上の履行期日を超過している以上は、Aは履行遅滞による責任を負い、BはAとの当該契約を解除することができる。
要点同時履行の抗弁権を主張して履行を拒んでも、履行遅滞の責任を負わない。
妥当でない。Bが自分の債務(商品乙の引渡し)を提供しないまま請求しても、Aは同時履行の抗弁権によって履行を拒めます。同時履行の抗弁権がある間は、履行期日を過ぎても、履行しないことは違法ではないので、Aは履行遅滞の責任を負わず、Bは契約を解除することもできません。
相手方が自分の債務を提供していないのに、先に履行しなかった側だけに遅滞の責任を負わせるのは、公平でないからです。
4.正答
Aは、Bに対して商品を販売する契約を締結し、Aが商品を引き渡すのと引換えに、Bは代金を支払った。しかしその後、Bへ引き渡された商品には重大な欠陥が発見され、Bは、最終的に当該契約を解除した。この解除により、AとBはそれぞれ相手方を原状に復させる義務を負うが、これらの義務は同時履行の関係に立つため、Aが自らの義務を履行するまでは、Bも自らの義務の履行を拒むことができる。
要点解除による双方の原状回復義務は、同時履行の関係に立つ。
妥当である。契約の解除によって当事者が負う原状回復義務には、同時履行の抗弁権の規定が準用されます(民法546条)。Aの代金返還義務とBの商品返還義務は同時履行の関係に立つので、Aが自分の義務を履行するまで、Bも自分の義務の履行を拒めます。
解除によって、互いに受け取ったものを返し合う関係が生じます。一方だけが先に返させられるのは、契約を履行するときと同じく公平でないからです。
【民法 第546条】
(契約の解除と同時履行)
第五百四十六条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
5.誤答
Aは、所有する土地をBに販売する契約を締結した。しかし、その後BがAに当該土地の引渡しを求めたところ、Aは「気が変わった。この土地を譲る気はない。」と明確に引渡しを拒絶した。この場合でも、当該土地の引渡債務と代金の支払債務は同時履行の関係に立つことから、Bは、弁済の提供を行わなければ、Aの債務不履行による履行遅滞の責任を追及することはできない。
要点履行しない意思を明確にした当事者は、提供がなくても履行遅滞の責任を負う。
妥当でない。判例は、双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、その当事者は履行遅滞の責任を免れないとしました(最判昭41.3.22)。Bは、弁済の提供をしなくても、Aの履行遅滞の責任を追及できます。
受け取らない、渡さないとはっきり言っている相手に対して、わざわざ提供することを求めても意味がありません。同時履行の抗弁権は当事者間の公平のためのものなので、自分から履行を拒絶した者を守る理由はないのです。
【最判昭41.3.22 裁判要旨】
双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、右当事者の一方は、自己の債務の不履行について履行遅滞の責を免れることをえないものと解するのが相当である。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.28
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
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