2026年 国家総合職 問題27
民法債権譲渡・債権の消滅
【No. 27】相殺に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
相殺は、互いに同種の債務を負う二人が、対当額で債務を消滅させるものです。相殺をするには、双方の債務が弁済期にあること(相殺適状)が必要です(民法505条1項)。相殺する側の債権を自働債権、相殺される側の債権を受働債権といいます。
相殺は、相手方の意思にかかわらず一方的にできるので、相手方の利益を不当に奪わないことが求められます。自働債権について相手方が持っている期限の利益や抗弁を奪う相殺は認められず、受働債権の期限の利益は相殺する側が自分で放棄できます。また、相殺できることへの期待は、担保のような働きを持つので、差押えなどがあっても一定の範囲で保護されます。
【民法 第505条第1項】
(相殺の要件等)
第五百五条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
ア.正答
Aは、Bに対する100万円の債権aを有しており、債権aの弁済期は2021年2月1日であった。また、Bは、Aに対する100万円の債権bを有しており、債権bの弁済期は2026年1月31日であった。債権aは、2026年2月1日の経過をもって5年の消滅時効期間を経過した。その後、BがAに対して債権bの弁済として100万円の支払を要求した場合、Aは、債権aを自働債権として、債権bと相殺することができる。
要点消滅以前に相殺適状にあった債権は、時効消滅後も自働債権にできる。
妥当である。時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は相殺をすることができます(民法508条)。債権aと債権bは、債権bの弁済期(2026年1月31日)に両方とも弁済期にあり、債権aの時効期間の経過(2月1日の経過)より前に相殺適状になっていたので、Aは相殺できます。
相殺適状になった当事者は、互いの債権はもう決済されたものと考えるのが普通です。その信頼を守るため、後で時効が完成しても相殺を認めているのです。
【民法 第508条】
(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
第五百八条 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
イ.誤答
Aは、Bに対する100万円の債権aを有しており、債権aの弁済期は2026年3月31日である。また、Bは、Aに対する100万円の債権bを有しており、債権bの弁済期は2026年1月31日であった。2026年3月1日に、BがAに対して債権bの弁済として100万円の支払を要求した場合、Aは、債権aを自働債権として、債権bと相殺することができる。
要点自働債権が弁済期にないときは、相殺できない。
妥当でない。相殺をするには、双方の債務が弁済期にあることが必要です(民法505条1項)。3月1日の時点で、Aが相殺に使おうとする自働債権aの弁済期(3月31日)は来ていないので、Aは相殺できません。
弁済期前に自働債権で相殺することを認めると、Bは、本来は3月31日まで払わなくてよい債務を、Aの一方的な意思で前倒しで払わされることになり、Bの期限の利益を奪うからです。
ウ.誤答
Aは、Bに対して商品を売却し、代金100万円を支払ってもらう代金債権aを有し、Bは、Aに商品を引き渡してもらう債権bを有する。さらに、Bは、Aに対して100万円の貸金債権cをも有している。債権a、債権b及び債権cの弁済期がいずれも到来しているが、いずれも弁済の提供がされていない場合、Aは、債権aを自働債権として、債権cと相殺することができる。
要点同時履行の抗弁権が付いた債権を自働債権として相殺することはできない。
妥当でない。代金債権aには、Bの引渡債権bとの間の同時履行の抗弁権(民法533条)が付いています。このように抗弁権の付いた債権を自働債権として相殺することは、できないと解されています。
相殺を認めると、Bは、商品の引渡しを受けないまま代金を払ったのと同じ状態になり、同時履行の抗弁権を一方的に奪われます。相殺によって相手方の抗弁を奪うことは許されないのです。
【民法 第533条】
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
エ.誤答
Aは、Bに対する100万円の債権aを有しており、Cは、Aに対する100万円の債権bを有しており、Dも、Aに対する100万円の債権cを有している。Cは、Aが債権bを弁済しなかったため、Aが有する債権aを差し押さえたところ、その後、BがDから債権cを取得した。債権a及び債権c双方の弁済期が到来している場合、Bは、債権cを自働債権として、債権aと相殺することができる。
要点差押え後に他人から取得した債権では、相殺を差押債権者に対抗できない。
妥当でない。差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺を差押債権者に対抗できません(民法511条1項)。差押え前の原因に基づいて生じた債権なら対抗できるという例外も、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは除かれます(同条2項ただし書)。Bは、差押え後にDから債権cを取得したので、相殺を差押債権者Cに対抗できません。
差押え後に他人の債権を買い集めて相殺することを認めると、差押えの効力が簡単に失われてしまいます。差押えの時点で正当な相殺の期待を持っていた人だけを守るのです。
【民法 第511条】
(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百十一条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
オ.正答
Aは、Bに対する100万円の債権aを2025年7月1日から有しており、債権aの弁済期は2026年7月1日である。また、Bは、Aに対する100万円の債権bを2025年8月1日から有しており、債権bの弁済期は2026年8月1日である。Aの債権者であるCが、2026年6月30日に債権aを差し押さえたとしても、Bは、2026年8月7日に、債権bを自働債権として、債権aと相殺することができる。
要点差押え前に取得した債権なら、弁済期の前後を問わず相殺を対抗できる。
妥当である。第三債務者は、差押え前に取得した債権による相殺をもって、差押債権者に対抗できます(民法511条1項)。判例も、反対債権が差押え後に取得されたものでない限り、両債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば相殺できるとしていました(最大判昭45.6.24)。Bは差押え前に債権bを取得しているので、8月7日に相殺できます。
差押え前から反対債権を持っていた第三債務者は、相殺によって自分の債権を回収できると期待しています。この担保のような期待は、差押えがあっても保護に値するからです。
【最大判昭45.6.24 裁判要旨】
一、債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。
【民法 第511条第1項】
(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百十一条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.27
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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