2026年 国家総合職 問題25
民法債務不履行・責任財産の保全
【No. 25】詐害行為取消権に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
詐害行為取消権は、債務者が責任財産(債権者が強制執行でかかっていける財産)を減らす行為をしたときに、債権者がその行為を取り消して、責任財産を元に戻す制度です。取消しを認める判決は、債務者とその全ての債権者に効力が及びます(民法425条)。
取り消す範囲、取り戻し方、だれを相手にするかといった決まりは、債権者の権利の実現に必要な限りで、責任財産を回復させるという目的から組み立てられています。
【民法 第425条】
(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
第四百二十五条 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
1.正答
債権者Aが、債務者Bと受益者Cとの間の売買契約について詐害行為取消請求をする場合、Aは、Cを被告として訴えを提起する。また、Bには被告適格がないものの、Aは、Bに対して遅滞なく訴訟告知をしなければならない。
要点受益者を被告とし、債権者は遅滞なく債務者に訴訟告知をしなければならない。
妥当である。受益者に対する詐害行為取消請求の訴えは、受益者を被告とし(民法424条の7第1項1号)、債務者は被告になりません。債権者は、訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に訴訟告知をしなければなりません(同条2項)。
取消しを認める判決の効力は債務者にも及ぶので、債務者にも訴訟に関与する機会を与える必要があります。被告にはしないが訴訟告知を義務付けることで、この調整をしているのです。
【民法 第424条の7】
(被告及び訴訟告知)
第四百二十四条の七 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者
2 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
2.誤答
詐害行為取消請求は総債権者の利益のために行うものであるため、債権者の一人が詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした詐害行為の目的が可分であるときは、全ての債権者の債権額の合計が取消しの限度額となる。
要点目的が可分なら、取消しは自己の債権の額の限度でしか請求できない。
妥当でない。債務者がした行為の目的が可分であるときは、債権者は、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求できます(民法424条の8第1項)。全ての債権者の債権額の合計が限度になるわけではありません。
詐害行為取消権は、取消しを求める債権者が自分の債権を実現できるよう責任財産を守るためのものです。その必要を超えて債務者の行為を取り消すことは、債務者や受益者の利益を必要以上に害するからです。
【民法 第424条の8第1項】
(詐害行為の取消しの範囲)
第四百二十四条の八 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
3.誤答
債権者Aが、債務者Bと受益者Cとの間の不動産売買契約について詐害行為取消請求をする場合、Aは、Cに対して、直接自己に所有権移転登記をするよう求めることができる。
要点不動産の売買を取り消しても、直接自己への移転登記は請求できない。
妥当でない。判例は、詐害行為を取り消す場合に、債権者は、直接自己に対する所有権移転登記手続を請求することはできないとしました(最判昭53.10.5)。不動産は、債務者の名義に戻すことになります。
詐害行為取消権は、債務者の責任財産を回復させて、全ての債権者のために強制執行の対象にするための制度です。取消債権者に直接権利を移すことは、この目的を超えるからです。金銭や動産について直接の支払・引渡しを認める民法424条の9も、不動産の登記には及びません。
【最判昭53.10.5 裁判要旨】
不動産の引渡請求権者は、目的不動産についてされた債務者の処分行為を詐害行為として取り消す場合に、直接自己に対する所有権移転登記手続を請求することはできない。
【民法 第424条の9第1項】
(債権者への支払又は引渡し)
第四百二十四条の九 債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
4.誤答
債権者Aが、債務者Bが他の債権者Cに対して行った過大な代物弁済について詐害行為取消請求をする場合、代物弁済によって消滅する債務の額を超えた過大部分のみが取消請求の対象となり、代物弁済によって消滅する債務の額に相当する部分は、取消請求の対象とならない。
要点過大な代物弁済は、偏頗行為の要件を満たせば全部を取り消せる。
妥当でない。過大な代物弁済で、消滅した債務の額を超える部分は、詐害行為の一般の要件(民法424条)を満たせば取り消せます(424条の4)。しかし、それだけではなく、債務の消滅に関する行為として偏頗行為の要件(424条の3)を満たすときは、債務の額に相当する部分を含めて、代物弁済の全部を取り消すことができます。
過大な代物弁済は、財産を減らす面と、特定の債権者だけに弁済して平等を害する面の両方を持つからです。
【民法 第424条の3第1項】
(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
第四百二十四条の三 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
【民法 第424条の4】
(過大な代物弁済等の特則)
第四百二十四条の四 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。
5.誤答
受益者が善意であったとしても、受益者から転得した転得者が悪意であれば、債権者は、転得者に対し、詐害行為取消請求をすることができる。
要点転得者への取消請求は、受益者に対して取消請求できる場合に限られる。
妥当でない。転得者に対して詐害行為取消請求ができるのは、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合に限られます(民法424条の5)。受益者が善意であれば、転得者が悪意でも、転得者に対して取消請求はできません。
転得者に対する取消請求は、受益者に対する取消請求ができることを前提に、その延長として位置付けられています。受益者が善意で取消しを免れるなら、財産は確定的に受益者のものとなり、その後の転得者のもとで改めて取り消す基礎がなくなるのです。
【民法 第424条の5】
(転得者に対する詐害行為取消請求)
第四百二十四条の五 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.25
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
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