2026年 国家総合職 問題17
行政法損失補償
【No. 17】損失補償に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
損失補償は、適法な公権力の行使によって特定の人に生じた特別の犠牲を、社会全体で負担するための制度です(憲法29条3項)。財産権の制限が、だれもが受忍すべき一般的な制約にとどまるなら補償は要らず、それを超える特別の犠牲なら補償が必要になります。
補償が要るかを考えるときは、その制限が、財産権にもともと内在している制約なのか、外から新たに課された負担なのかに注目します。
【日本国憲法 第29条第3項】
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
ア.正答
財産上の犠牲が、公共のために必要な制限によるものとはいえ、単に一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超え、特別の犠牲を課したものである場合には、個々の法律に損失補償に関する規定がなくても、当事者は、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法第29条第3項を根拠にして補償を請求することができると解する余地がある。
要点補償規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠に補償を請求する余地がある。
妥当である。判例は、財産上の犠牲が、一般的に当然に受忍すべき制限の範囲を超え、特別の犠牲を課したものである場合には、損失補償に関する規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠にして補償請求をする余地がないではないとしました(最大判昭43.11.27)。
憲法29条3項は、財産権を公共のために用いるときは正当な補償をすることを定めています。法律に規定がないために補償が受けられないとすると、特別の犠牲を負った人だけが負担を負うことになり、この規定の趣旨に反するからです。
【最大判昭43.11.27 裁判要旨】
二 財産上の犠牲が単に一般的に当然に受認すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直接憲法第二九条第三項を根拠にして、補償請求をする余地がないではない。
イ.誤答
普通地方公共団体の行政財産である土地について、建物所有を目的とし、期間の定めなくされた使用許可が、当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向かって取り消されたとき、当該使用許可を受けていた者は、原則として、使用許可の取消しによる土地使用権の喪失についての補償を受けることができる。
要点行政財産の使用許可の撤回では、原則として使用権喪失の補償は求められない。
妥当でない。判例は、期間の定めなくされた行政財産の使用許可が、行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき取り消された場合、使用権者は、特別の事情のない限り、使用権の喪失について補償を求めることはできないとしました(最判昭49.2.5)。
判例は、こうした使用権には、行政財産本来の用途・目的上の必要が生じたときは消滅するという制約が、もともと内在していると考えました。その制約が現実になっただけで、外から新たに特別の犠牲を課したのではないからです。
【最判昭49.2.5 判決理由】
したがつて、本件のような都有行政財産たる土地につき使用許可によつて与えられた使用権は、それが期間の定めのない場合であれば、当該行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたときはその時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自体に右のような制約が内在しているものとして付与されているものとみるのが相当である。
【最判昭49.2.5 裁判要旨】
都有行政財産である土地について建物所有を目的とし期間の定めなくされた使用許可が当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向つて取り消されたときは、使用権者は、特別の事情のないかぎり、右取消による土地使用権喪失についての補償を求めることはできない。
ウ.正答
土地収用法所定の損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するものではなく、証拠に基づいて、収用委員会の裁決の時点における正当な補償額を客観的に認定し、当該裁決に定められた補償額がこれと異なるときは、当該裁決に定められた補償額を違法とし、正当な補償額を確定すべきである。
要点収用の補償額訴訟では、裁判所が正当な補償額を客観的に認定し確定する。
妥当である。判例は、土地収用法の損失補償に関する訴訟で、裁判所は、収用委員会の判断に裁量権の逸脱濫用があるかを審理するのではなく、裁決時点の正当な補償額を客観的に認定し、裁決の補償額がこれと異なるときは、それを違法とし、正当な補償額を確定すべきだとしました(最判平9.1.28)。
判例は、収用の補償は完全な補償であるべきで、その額は通常人の経験則と社会通念に従って客観的に認定できるので、収用委員会に裁量はないと考えました。裁量がない以上、裁判所が自ら正しい額を決めることになるのです。
【最判平9.1.28 判決理由】
同法による補償金の額は、「相当な価格」(同法七一条参照)等の不確定概念をもって定められているものではあるが、右の観点から、通常人の経験則及び社会通念に従って、客観的に認定され得るものであり、かつ、認定すべきものであって、補償の範囲及びその額(以下、これらを「補償額」という。)の決定につき収用委員会に裁量権が認められるものと解することはできない。
【最判平9.1.28 裁判要旨】
一 土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するのではなく、裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、これを違法とし、正当な補償額を確定すべきである。
エ.誤答
国家賠償法第1条第1項の規定に基づく損害賠償請求に、憲法第29条第3項の規定に基づく損失補償請求を予備的・追加的に併合することの申立ては、各請求の実質が同一であったとしても、行政事件訴訟法にこのような併合を許容する明文の規定が存在しないことから、許されない。
要点国賠請求に損失補償請求を予備的・追加的に併合することは、許される場合がある。
妥当でない。判例は、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求に、憲法29条3項に基づく損失補償請求を予備的・追加的に併合することは、両請求が被告を同じくし、経済的不利益の内容が同一で、発生原因が実質的に共通するなど相互に密接な関連性を有するときは、請求の基礎を同一にするものとして許されるとしました(最判平5.7.20)。
同じ行為から生じた同じ損失について、違法を理由とする賠償と、適法を前提とする補償のどちらかで救済を求めるもので、まとめて審理する方が紛争を一度に解決できるからです。明文の規定がないことは、併合を否定する理由になりません。
【最判平5.7.20 裁判要旨】
一 国家賠償法一条一項の規定に基づく損害賠償請求に憲法二九条三項の規定に基づく損失補償請求を予備的、追加的に併合することが申し立てられた場合において、右予備的請求が、主位的請求と被告を同じくする上、その主張する経済的不利益の内容が同一で請求額もこれに見合うものであり、同一の行為に起因するものとして発生原因が実質的に共通するなど,相互に密接な関連性を有するものであるときは、右予備的請求の追加的併合は、請求の基礎を同一にするものとして民訴法二三二条の規定による訴えの追加的変更に準じて許される。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.17
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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