2026年 国家総合職 問題14
行政法取消訴訟の要件
【No. 14】抗告訴訟の原告適格に関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
処分の相手方以外の者に原告適格があるかは、その者が処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益」を持つかで決まります(行政事件訴訟法9条1項)。判例は、処分の根拠となる法令が、不特定多数者の利益を一般的公益として守るだけでなく、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むかで判断しています。
その判断では、法令の文言だけでなく、法令の趣旨・目的や、害される利益の内容・性質も考えます(同条2項)。生命・身体の安全のように重大な利益で、被害が直接及ぶ範囲の人は、個別的利益として保護されやすく、財産権や営業上の利益は、法令の仕組みしだいで分かれます。
【行政事件訴訟法 第9条】
(原告適格)
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
1.誤答
森林法に基づく林地開発許可処分について、当該処分の要件を定めた規定は、土砂の流出や水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命、身体の安全等に加えて、周辺土地の所有権等の財産権を個々人の個別的利益として保護する趣旨をも含むものと解されることから、開発区域内又はその周辺に所在する土地上に立木を所有しているにすぎない者であっても、林地開発許可処分の取消しを求める原告適格を有する。
要点林地開発許可で、周辺に立木を所有するにすぎない者には原告適格がない。
妥当でない。判例は、林地開発許可で、土砂の流出や崩壊、水害等の災害により生命、身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者には原告適格があるとしました。一方、開発区域内やその周辺の土地上に立木を所有するにすぎない者には、原告適格はないとしました(最判平13.3.13)。
判例は、森林法の規定から、周辺住民の生命・身体の安全に加えて、周辺土地の所有権等の財産権まで個別的利益として保護する趣旨は読み取れないとしたのです。
【最判平13.3.13 判決理由】
しかし,森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から,周辺住民の生命,身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難である。
【最判平13.3.13 裁判要旨】
土砂の流出又は崩壊,水害等の災害により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,森林法(平成11年法律第87号による改正前のもの)10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。
2.誤答
建築基準法に基づく総合設計許可処分の取消訴訟において、当該許可に係る建築物の倒壊、炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する建築物の居住者は原告適格を有するが、当該範囲の地域に存する建築物を所有するのみで居住していない者は原告適格を有しない。
要点総合設計許可は、周辺の建築物の居住者だけでなく所有者にも原告適格がある。
妥当でない。判例は、総合設計許可に係る建築物の倒壊、炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域にある建築物に居住し又はこれを所有する者は、許可の取消訴訟の原告適格を有するとしました(最判平14.1.22)。所有するだけで居住していない者にも原告適格があります。
建築物の倒壊や炎上は、周辺の人の生命・身体だけでなく、周辺の建築物そのものにも直接被害を与えます。判例は、建築基準法の規定が、こうした被害を受ける建築物の所有者の財産権も個別的に保護していると考えました。
【最判平14.1.22 裁判要旨】
建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有する。
3.正答
都市計画法に基づく開発許可処分について、当該処分の基準を定めた規定は、崖崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を保護する趣旨を含むものと解されることから、開発区域内外を問わず、崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可処分の取消しを求める原告適格を有する。
要点がけ崩れ等で直接被害が予想される範囲の住民は、開発許可の原告適格を有する。
妥当である。判例は、開発区域内の土地ががけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等により生命、身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消訴訟の原告適格を有するとしました(最判平9.1.28)。
判例は、都市計画法の規定が、がけ崩れ等による災害を防止することで、被害が直接及ぶ範囲の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと考えました。生命・身体という重大な利益が直接害されるおそれがあるからです。
【最判平9.1.28 裁判要旨】
一 開発区域内の土地が都市計画法(平成四年法律第八二号による改正前のもの)三三条一項七号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等により生命、身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。
4.誤答
公衆浴場法が公衆浴場の経営につき許可制を採用したのは、主として国民保健及び環境衛生という公共の福祉の見地から出たものであり、適正な許可制度の運用によって保護されるべき公衆浴場経営者の営業上の利益は単なる事実上の反射的利益にすぎないから、既存の公衆浴場経営者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める原告適格を有しない。
要点既存の公衆浴場営業者は、第三者への営業許可の無効確認の訴えの利益を有する。
妥当でない。判例は、既存の公衆浴場営業者は、第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴えの利益を有しないとはいえないとしました(最判昭37.1.19)。既存業者の営業上の利益を、単なる事実上の反射的利益とはみていません。
判例は、公衆浴場法の配置の適正の規定は、浴場の偏在や濫立を防ぎ、無用の競争による経営の不合理化と衛生設備の低下を防ぐためのもので、適正な許可制度の運用によって守られる既存業者の営業上の利益は、法的に保護された利益だと考えました。
【最判昭37.1.19 判決理由】
これら規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として「国民保健及び環境衛生」という公共の福祉の見地から出たものであることはむろんであるが、他面、同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところであつて、適正な許可制度の運用によつて保護せらるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によつて保護せられる法的利益と解するを相当とする。
5.誤答
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく風俗営業許可処分について、風俗営業制限地域は、当該地域における良好な風俗環境の保全を目的として指定されるものであるから、風俗営業制限地域に居住する住民は、当該地域においてなされた風俗営業許可処分の取消しを求める原告適格を有する。
要点風俗営業制限地域に居住する者は、風俗営業許可の取消しの原告適格を有しない。
妥当でない。判例は、条例で定められた風俗営業制限地域に居住する者は、その地域内の風俗営業許可処分の取消しを求める原告適格を有しないとしました(最判平10.12.17)。
判例は、制限地域の指定は、地域の良好な風俗環境を保全するという一般的公益のためのもので、そこに住む個々の住民の個別的利益まで保護する趣旨は含まないと考えました。住民の利益は、公益が守られることによる反射的なものにとどまるのです。
【最判平10.12.17 裁判要旨】
風俗営業等の規則及び業務の適正化等に関する法律施行令六条一号イの定める基準に従って規定された都道府県の条例所定の風俗営業制限地域に居住する者は、同地域内における風俗営業許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.14
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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