2026年 国家一般職 問題29
民法不法行為
【No. 29】不法行為における監督者責任及び使用者責任に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
監督者責任と使用者責任は、どちらも、自分ではなく他人がした加害について責任を負う仕組みです。そのため、どういう関係にある人に、どこまで責任を負わせるかが問われます。
監督者責任:責任能力のない者が加えた損害について、法律上その者を監督する義務を負う者が責任を負う。監督の義務を怠らなかったことなどを証明すれば、責任を免れる
使用者責任:被用者が事業の執行について加えた損害について、使用者が責任を負う。判例は、使用者が被用者の活動で利益を上げ、事業を広げて他人に損害を与える危険を増やしていることに着目し、損害の公平な分担という見地から使用者に負担させるものだとしています(最判令2.2.28)
【最判令2.2.28 判決理由】
…民法715条1項が規定する使用者責任は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである…
ア.誤答
責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動についても、人身に危険が及ばないように注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があるため、その子が、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合でも、法定の監督義務者として、原則として損害賠償責任を負う。
要点通常は危険のない行為で偶然生じた損害は、特別の事情がない限り責任を負わない。
妥当でない。判例は、責任能力のない子の親権者について、通常は人身に危険が及ぶとはみられない行為でたまたま損害が生じた場合は、その行為を具体的に予見できたなど特別の事情がない限り、監督義務を尽くしていなかったとはいえないとしました(最判平27.4.9。校庭でのサッカーボールの事案)。「原則として損害賠償責任を負う」とする部分が誤りです。
判例は、親の目が届かない場面での子への指導監督は、ある程度一般的なものにならざるを得ないことを理由にしています。普段から通常のしつけをしていれば、予見できない偶然の事故まで責任を負わせることはしません。
【最判平27.4.9 判決理由】
また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
イ.誤答
責任能力がない者と同居する配偶者は、法定の監督義務者に該当するため、当該責任能力がない者が他人に損害を加えた場合には、原則として損害賠償責任を負う。
要点同居の配偶者であることだけで、法定の監督義務者に当たるわけではない。
妥当でない。判例は、精神障害者と同居する配偶者であるからといって、民法714条1項の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないとしました(最判平28.3.1)。
判例は、夫婦の同居・協力・扶助の義務(752条)は、夫婦が互いに相手に対して負う義務で、第三者との関係で相手を監督する義務を課すものではないとしています。監督義務者に当たらなければ、監督者責任は負いません。
【最判平28.3.1 判決理由】
…民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定しているが,これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,…
【民法 第714条第1項】
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
【民法 第752条】
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
ウ.正答
未成年者が責任能力を有する場合には、親権者は民法第714条に基づく監督者責任を負わないが、監督義務者たる親権者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めることができるときは、当該親権者につき民法第709条に基づく不法行為が成立する。
要点責任能力ある未成年者の監督義務者も、民法709条の責任を負うことがある。
妥当である。未成年者に責任能力があれば未成年者自身が責任を負うので、監督義務者は監督者責任を負いません(民法714条1項)。しかし判例は、監督義務者の義務違反と、未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者に709条の不法行為が成立するとしました(最判昭49.3.22)。
監督者責任は、責任無能力者が責任を負わない場合のための規定です。これとは別に、監督義務者自身の義務違反を理由とする一般の不法行為は成り立ちうるので、判例は、714条はこの解釈の妨げにならないとしています。
【最判昭49.3.22 判決理由】
未成年者が責任能力を有する場合であつても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法七〇九条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当であつて、民法七一四条の規定が右解釈の妨げとなるものではない。
【民法 第714条第1項】
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
【民法 第709条】
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
エ.正答
被用者による取引行為が、その行為の外形からみて、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものではなく、かつ、その行為の相手方がその事情を知りながら当該取引をしたときは、当該相手方は、使用者に対してその損害の賠償を請求することができない。
要点外形上職務内の取引でも、相手方が悪意・重過失なら使用者責任を追及できない。
妥当である。判例は、被用者の取引行為が外形から見て使用者の事業の範囲内に属する場合でも、職務権限内で適法に行われたものでなく、相手方がその事情を知り、又は重大な過失で知らなかったときは、相手方は使用者に損害の賠償を請求できないとしました(最判昭42.11.2)。
通説では、外形から事業の範囲内と見える取引に使用者責任を認めるのは、その外形を信頼した相手方を守るためと解されています。職務権限の外だと知っていた(又は少し注意すれば分かった)相手方は、外形を信頼したとはいえないので、守る理由がありません。
【最判昭42.11.2 裁判要旨】
被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り、または少なくとも重大な過失によつてこれを知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法第七一五条により使用者に対してその取引行為に基づく損害の賠償を請求することができない。
【民法 第715条第1項】
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
オ.誤答
被用者が第三者に損害を加えた場合には、それが使用者の事業の執行についてされたものであったとしても、被用者は、自らの不法行為により損害を発生させたのであるから、その損害の全額について賠償しなければならず、使用者への求償は認められない。
要点損害を賠償した被用者は、相当と認められる額を使用者に求償できる。
妥当でない。判例は、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、それを賠償したときは、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償できる(負担を求められる)としました(最判令2.2.28)。額は、事業の性格や規模、労働条件、加害行為の予防や損失の分散についての使用者の配慮の程度など、諸般の事情から決まります。
判例は、使用者責任の趣旨から、使用者は被用者との関係でも損害を負担すべき場合があるとし、使用者が先に賠償した場合と、被用者が先に賠償した場合とで、使用者の負担が変わるのは相当でないとしています。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.29
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
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