2026年 国家一般職 問題21
民法代理
【No. 21】代理に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
表見代理は、代理権がないのに代理人らしく見える者と取引した相手方を、一定の場合に守る制度です。本人に効果を帰属させるので、次の2つがそろうことが必要です。
本人の側:代理権があるかのような外観を、本人が作ったか、その外観に関わっていること
相手方の側:その外観を信じ、信じたことがもっともであること(代理権がないことを知らず、知らないことに過失がない、など)
本人が関わっていない外観や、相手方が注意すれば気づけた外観では、本人に責任を負わせる理由がありません。
ア.誤答
Aは、実際には代理権を与える意思がないにもかかわらず、Bに代理権を与えた旨をCに表示し、Bがその表示された代理権の範囲内においてCと契約を締結した場合、CがAに対してその責任を負わせるためには、Bに代理権が与えられていると信じたことと、そのように信じたことについて過失がないことの双方をCが主張立証しなければならない。
要点代理権授与の表示による表見代理では、相手方の悪意・有過失は本人が立証する。
妥当でない。判例は、代理権を与えた旨を表示した本人が、相手方の悪意又は過失を主張・立証すれば責任を免れるとしました(最判昭41.4.22)。Cが善意無過失を主張立証する必要はありません。
本人が代理権を与えたと表示した以上、相手方がそれを信じるのは自然なので、相手方は自分の善意無過失を証明しなくても守られるのが原則です。民法109条1項が、悪意・有過失を、責任を負う本文に対するただし書として定めているのも、この関係を表しています。
【最判昭41.4.22 裁判要旨】
一 民法第一〇九条の代理権授与表示者が、代理行為の相手方の悪意または過失を主張・立証した場合には、同条所定の責任を免れることができる。
【民法 第109条第1項】
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
イ.誤答
AがBに対してAの名称の使用を黙認していた場合において、BがA本人であるかのように見える形でCと取引を行ったときは、Cが不注意によりA本人との取引であると信じたとしても、Aは、Cに対し、その取引に関する責任を負う。
要点名称の使用を黙認した者も、相手方に過失があれば責任を負わない。
妥当でない。判例は、自分の名称の使用を他人に許すなどして、他人の取引が自分の取引であるかのように見える外形を作った者は、民法109条などの法理により、その外形を信じて取引した相手方に責任を負うとしました(最判昭35.10.21)。ただし、守られるのは善意無過失の相手方です。Cが不注意で信じたのなら、Aは責任を負いません。
外形を作った本人に責任を負わせるのは、その外形を信じた相手方を守るためです。注意すれば真実に気づけた相手方まで守ると、外形に関わっただけの本人の負担が重くなりすぎます。
【最判昭35.10.21 裁判要旨】
一般に官庁の部局をあらわす文字である「部」と名付けられ、裁判所庁舎の一部を使用し、現職の職員が事務を執つていた「東京地方裁判所厚生部」は、東京地方裁判所の一部局としての表示力を有するものと認めるべきであり、東京地方裁判所当局が同部の事業の継続処理を認めた以上、これにより同裁判所は、「厚生部」のする取引が自己の取引なるかのごとく見える外形を作り出したものというべく、善意無過失の相手方に対し、「厚生部」のした取引につき自ら責に任ずべきである。
【民法 第109条第1項】
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
ウ.正答
Aは、その所有する土地に自らの債務を担保するために抵当権を設定することを意図し、それをBに行わせる目的で、白紙委任状等の書類をBに交付した。しかし、Bは抵当権を設定せずにこれらの書類をCに交付し、CがAの代理人と称して、Dに対するCの複数の債務を担保するために当該土地に根抵当権を設定した。この場合、Aは、Dに対してその責任を負わない。
要点書類が予定外の者に渡り濫用されたときは、本人は原則として責任を負わない。
妥当である。判例は、抵当権の登記手続のために白紙委任状などの書類を交付した場合でも、誰が使ってもよい趣旨で交付したのでない限り、交付を受けた者がさらに書類を渡した別の者がこれを濫用して代理人として契約したときは、本人は民法109条の責任を負わないとしました(最判昭39.5.23)。
判決は、登記に使う書類は、渡した相手からさらに別の人へ転々と流通するのが普通ではないことを重く見ました。本人が想定していない者による濫用にまで、代理権を与えたという表示の責任を負わせることはできません。
【最判昭39.5.23 判決理由】
けだし、不動産登記手続に要する前記の書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され、転輾流通することを常態とするものではないから、不動産所有者は、前記の書類を直接交付を受けた者において濫用した場合や、とくに前記の書類を何人において行使しても差し支えない趣旨で交付した場合は格別、右書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといつて当然にその者よりさらに交付を受けた第三者がこれを濫用した場合にまで民法一〇九条に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではないからである。
【民法 第109条第1項】
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
エ.正答
Aは、自らの印鑑をBに預け、市役所で印鑑証明書の交付申請手続を行う代理権を与えたところ、Bが当該証明書を用いて、BのCに対する債務を担保するためにAが所有する土地に抵当権を設定した場合、Aは、Cに対してその責任を負わない。
要点印鑑証明書の交付申請の代理権は、表見代理の基本代理権にならない。
妥当である。判例は、民法110条の表見代理が成立するために必要な基本代理権は、私法上の行為についての代理権であることを要し、印鑑証明書の交付申請のような公法上の行為についての代理権は当たらないとしました(最判昭39.4.2)。基本代理権とは、代理人が実際に持っている、もとになる代理権です。
判決は、表見代理が取引の安全を守るための制度であることを根拠にしました。役所への申請を頼んだだけでは、取引について代理権を与えたとはいえず、取引の相手方の信頼を本人に負わせる基礎がない、という考え方です。
【最判昭39.4.2 判決理由】
しかし、取引の安全を目的とする表見代理制度の本旨に照らせば、民法一一〇条の権限踰越による表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は、私法上の行為についての代理権であることを要し、公法上の行為についての代理権はこれに当らないと解するのが相当である。
【民法 第110条】
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
オ.誤答
Aが所有する土地につき、その配偶者BがAに無断でCとの間で売買契約を締結した場合、AとBは相互に夫婦の日常家事に関する法律行為の代理権を有するため、原則として、Aは、Cに対してその責任を負う。
要点夫婦の一方の土地の売却は、通常は日常家事の範囲外で、他方は責任を負わない。
妥当でない。判例は、夫婦は日常の家事について互いに代理権を持つ(民法761条)としたうえで、その範囲を越えた行為は、相手方が日常の家事の範囲内と信じるにつき正当な理由があるときに限り、110条の趣旨を類推して相手方を守るとしました(最判昭44.12.18)。土地の売却は、ふつう日常の家事の範囲を越えるので、Aは原則として責任を負いません。
日常家事の代理権を基礎に広く表見代理を認めると、夫婦の一方の財産が、他方の行為で簡単に失われてしまいます。判決は、夫婦の財産的独立を損なうおそれを重く見ました。
【最判昭44.12.18 判決理由】
しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。
【民法 第761条】
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
【民法 第110条】
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.21
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。