2025年 国家総合職 問題3
憲法生存権
【No. 3】生存権に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
生存権の判例を読む軸は、「健康で文化的な最低限度の生活」が抽象的・相対的な概念だという点です。その中身は、その時々の経済的・社会的条件や国民生活の状況との関係で決まり、具体化には国の財政事情を踏まえた高度の専門技術的な考察と政策的判断が要ります。
そのため判例は、25条から直接に具体的な権利が生じるとはせず、どのような制度を作るかは立法府の広い裁量に、保護基準の設定は厚生労働大臣(当時は厚生大臣)の裁量にゆだね、著しく合理性を欠く場合などに限って違法・違憲としています(最大判昭57.7.7)。
【最大判昭57.7.7 判決理由】
このように、憲法二五条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。
【日本国憲法 第25条】
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
ア.誤答
生活保護法による保護の基準中の老齢加算に係る部分を改正するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣の政策的な見地からの裁量権は認められない。
要点老齢加算の廃止の判断には、厚生労働大臣の専門技術的・政策的な裁量権がある。
妥当でない。判例は、老齢であることに起因する特別な需要があるか、改定後の基準が健康で文化的な生活水準を維持できるかの判断に当たっては、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるとしました(最判平24.2.28)。裁量権は認められないとする部分が誤りです。
保護基準で最低限度の生活を具体化するには、統計などの専門的な考察と政策的な判断が要るためです。
【最判平24.2.28 判決理由】
もっとも,これらの規定にいう最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。したがって,保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し,最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては,厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。
イ.誤答
憲法第25条第1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は固定的ではないが、理論的には特定の国における特定の時点においては客観的に決定し得ることから、厚生大臣(当時)の生活保護基準の設定行為は裁判的統制に服する羈束行為であり、当該保護基準が客観的に決定される生活水準を維持する程度の保護に欠ける場合には、生活保護法に違反すると同時に、実質的に憲法第25条にも違反する。
要点何が最低限度の生活かの認定判断は、厚生大臣の合目的的な裁量に委されている。
妥当でない。判例は、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、厚生大臣の合目的的な裁量に委されているとしました(最大判昭42.5.24)。保護基準の設定行為を、裁量の余地のない「羈束行為」とする部分が誤りです(羈束行為:法律が行政庁の判断の余地を認めず、そのとおりに行うべきことを定めている行為)。
最低限度の生活の中身は、文化の発達や国民経済の進展とともに変わり、多くの不確定な要素を総合して決めるものだからです。ただし、著しく低い基準を設定するなど裁量権の限界を超えた場合は、違法となり得ます。
【最大判昭42.5.24 判決理由】
しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。
ウ.誤答
憲法第25条の規定の要請に応えて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件等について何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをしているときは、憲法第14条違反の問題を生じることになるから、障害福祉年金受給者が児童扶養手当の受給資格認定の請求を行った場合に、児童扶養手当法の定める併給禁止規定に当たるとして当該請求を却下することは、障害福祉年金受給者とそうでない者との間で差別を生ずることになり、憲法第14条に違反する。
要点障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止は、14条に違反しない。
妥当でない。判例は、25条を具体化する法令でも、合理的理由のない不当な差別的取扱いをすれば14条違反の問題が生じ得るとしつつ、併給調整条項による差別は合理的理由のない不当なものとはいえないとしました(最大判昭57.7.7)。14条に違反するとする部分が誤りです。
判例は、障害者や母子に対するほかの施策や生活保護制度があることを踏まえ、併給を調整するかどうかは立法府の裁量の範囲内だとしています。
【最大判昭57.7.7 判決理由】
しかしながら、本件併給調整条項の適用により、上告人のように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、さきに説示したところに加えて原判決の指摘した諸点、とりわけ身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
【日本国憲法 第14条第1項】
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
エ.正答
憲法第25条第1項の規定は、全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではなく、具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された法律によって、初めて与えられる。
要点25条1項は国の責務の宣言で、具体的権利は法律によって初めて与えられる。
妥当である。判例は、憲法25条1項は国の責務を宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではなく、具体的権利は生活保護法などの法律によって初めて与えられるとしました(最大判昭42.5.24)。
最低限度の生活の中身は抽象的・相対的で、条文だけからは、誰が何をどれだけ請求できるかが決まらないためです。
【最大判昭42.5.24 判決理由】
この規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない(昭和二三年(れ)第二〇五号、同年九月二九日大法廷判決、刑集二巻一〇号一二三五頁参照)。具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられているというべきである。
オ.正答
社会保障上の施策における在留外国人の処遇については、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断により決定することができ、限られた財源の下での福祉的給付を行うに当たり自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許され、障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄であって、憲法第25条に違反するものではない。
要点障害福祉年金の支給対象から在留外国人を除くことは、立法府の裁量に属する。
妥当である。判例は、社会保障上の施策で在留外国人をどう処遇するかは、特別の条約がない限り国の政治的判断で決められ、限られた財源の下で自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されるとしました(最判平元.3.2)。
判例は、障害福祉年金が、制度発足時の経過的な救済措置として設けられた全額国庫負担の無拠出制の年金で、支給対象の決定についてもともと広い裁量があることも重く見ています。
【最判平元.3.2 判決理由】
加うるに、社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。したがつて、法八一条一項の障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.3
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。