2025年 国家総合職 問題28
民法賃貸借
【No. 28】賃貸借に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
1.正答
賃借人が適法に賃借権を譲り渡し、賃借人の地位の変更があったときは、敷金に関する権利義務は、原則として新賃借人に承継されない。他方、対抗力ある賃借権が設定された賃貸不動産の譲渡により賃貸人の地位が移転した場合は、敷金の返還に係る債務は当然に新賃貸人に承継される。
要点賃借権の譲渡では敷金は承継されず、賃貸人の地位の移転では承継される。
妥当である。賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃貸人は敷金を返還しなければならず(民法622条の2第1項2号)、敷金の権利義務は原則として新賃借人に承継されません。一方、賃貸不動産の譲渡により賃貸人の地位が移転したときは、敷金の返還に係る債務は新賃貸人に承継されます(605条の2第4項)。
敷金は、その賃借人の債務を担保するために、その賃借人が差し入れたものです。新賃借人の債務まで担保させると、旧賃借人に予期しない不利益を負わせるからです(最判昭53.12.22 も同旨)。賃貸人が替わっても賃借人は同じなので、敷金は新賃貸人に引き継がれます。
【最判昭53.12.22 裁判要旨】
土地賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転された場・合であつても、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は、敷金交付者において賃貸人との間で敷金をもつて新賃借人の債務の担保とすることを約し又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、新賃借人に承継されない。
【民法 第605条の2第4項】
(不動産の賃貸人たる地位の移転)
4 第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
【民法 第622条の2第1項】
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
(略)
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2.誤答
Aが、賃貸する権原がないことを知りながら、他人であるCの所有物をBに賃貸した場合、悪意のBがAに賃料を支払済みであるときは、Cは、Aに対して不当利得の返還請求をすることができるが、Bに対して不当利得の返還請求をすることができない。
要点悪意の賃借人は、他人物の所有者に使用の利益を返還しなければならない。
妥当でない。権原のない者から賃借した占有者は、善意であれば果実を取得できますが(民法189条1項)、悪意の占有者は果実を返還し、消費した果実の代価を償還しなければなりません(190条1項)。物の使用による利益も果実に準じて扱われるので、悪意のBは、Aに賃料を払っていても、所有者Cに対して使用の利益を返還する義務を負います。Bに請求できないとする部分が誤りです。
善意の占有者は、自分の物だと信じて使い、果実を消費しているので保護されますが、他人の物と知っていた者を保護する理由はないからです。
【民法 第189条第1項】
(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
【民法 第190条第1項】
(悪意の占有者による果実の返還等)
第百九十条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
3.誤答
所有権以外の財産権として、地上権や地役権は取得時効の客体となるが、継続的給付を目的とする債権である賃借権は取得時効の客体となり得ない。
要点賃借の意思に基づく継続的な用益が外形上表れていれば、賃借権も時効取得できる。
妥当でない。所有権以外の財産権も時効取得の対象となり(民法163条)、判例は、土地の継続的な用益という外形的事実があり、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、土地賃借権を時効により取得できるとしました(最判昭43.10.8)。賃借権は時効取得の客体となり得ないとする部分が誤りです。
賃借権も、土地を継続して使い続けるという事実状態を伴う権利なので、その事実状態を長く続けた者を保護する時効の考え方が当てはまるからです。
【最判昭43.10.8 裁判要旨】
土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、土地賃借権を時効により取得することができる。
【民法 第163条】
(所有権以外の財産権の取得時効)
第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
4.誤答
賃借物の一部が滅失し、使用収益することができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃借人は、賃料の減額を請求することができ、賃借人の権利行使により減額の効果が生じる。
要点賃借物の一部が使えなくなれば、その割合に応じて賃料は当然に減額される。
妥当でない。賃借物の一部が滅失などにより使用収益できなくなった場合に、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その部分の割合に応じて当然に減額されます(民法611条1項)。減額を請求して初めて効果が生じるのではありません。平成29年の改正(令和2年4月施行)の前は「請求することができる」と定められていました。
賃料は、物を使用収益できることの対価なので、使えなくなった部分については、請求の有無にかかわらず対価が生じないと考えるのが自然だからです。
【民法 第611条第1項】
(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
5.誤答
Aが自己所有の不動産甲をBに賃貸している場合において、Bが適法に甲をCに転貸したときは、Cは、AとBとの間の賃貸借に基づくBの債務の範囲を限度として、Aに対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負い、甲についてBの負担に属する必要費を支出したときは、Aに対してその償還を請求することができる。
要点転借人は賃貸人に直接義務を負うが、賃貸人に必要費の償還を求める権利はない。
妥当でない。適法な転貸の場合、転借人(C)は、賃貸人(A)に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います(民法613条1項)。しかし、転借人が賃貸人に対して直接権利を持つわけではないので、必要費を支出したときは、転貸人(B)に償還を請求します(608条1項)。Aに対して請求できるとする部分が誤りです。
613条は、賃貸人を保護するために転借人に直接の義務を負わせたもので、賃貸人と転借人の間に契約関係を作るものではないからです。
【民法 第608条第1項】
(賃借人による費用の償還請求)
第六百八条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
【民法 第613条第1項】
(転貸の効果)
第六百十三条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.28
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
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