2025年 国家総合職 問題21
民法代理
【No. 21】民法第110条は、「代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき」に表見代理の成立を認めている。これに関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
民法110条の表見代理は、本人が何らかの代理権(基本代理権)を与えていたことを本人の落ち度とみて、その代理人の権限外の行為を信じた相手方を保護する制度です。
そのため判例は、①基本代理権は私法上の行為についての代理権であることを原則とし、②保護される「第三者」は、代理人と直接取引した相手方に限っています。本人に責任を負わせてよいだけの関わりがあるか、相手方の信頼が保護に値するか、の2つの面から判断しています。
【民法 第110条】
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
1.誤答
Aから印鑑証明交付の申請の権限を与えられたBが、印鑑証明を悪用してAが所有する不動産にCのために抵当権を設定した場合、民法第110条の表見代理が成立し得る。
要点印鑑証明交付の申請という公法上の行為の代理権は、基本代理権とならない。
妥当でない。判例は、110条の表見代理が成立するために必要な基本代理権は、私法上の行為についての代理権であることを要するとし、印鑑証明書の交付申請の権限を与えられたにすぎない者の権限外の行為(抵当権の設定)に、110条を適用しませんでした(最判昭39.4.2)。
印鑑証明書の交付申請は役所への手続にすぎず、本人がこれを頼んだだけでは、取引について代理人に権限を与えたとはいえず、本人に表見代理の責任を負わせるだけの関わりがないからです。
【最判昭39.4.2 裁判要旨】
民法第一一〇条の表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は私法上の行為についての代理権であることを要すると解すべきである。
2.誤答
民法第110条の「正当な理由がある」とは、第三者が善意であることを意味し、同条が適用されるために、第三者が無過失であることまでは必要とされない。
要点110条の「正当な理由」とは、代理権があると信じたことの善意無過失をいう。
妥当でない。110条の「正当な理由がある」とは、通説では、相手方が代理人に権限があると信じ(善意)、かつ、そう信じたことに過失がないことをいうと解されています。無過失までは要しないとする部分が誤りです。
表見代理は、権限のない代理行為の効果を本人に負わせる例外的な制度なので、本人の犠牲で保護するに値するのは、確認を尽くした相手方に限られるからです。
3.正答
AからA所有の不動産を特定の施設に贈与するための所有権移転登記申請の権限を与えられたBが、実印等を悪用して、当該施設とは異なる施設Cに当該不動産を売却した場合、民法第110条の表見代理が成立し得る。
要点登記申請の権限でも、私法上の契約による義務の履行のためなら基本代理権となる。
妥当である。判例は、登記申請の権限を与えられた者がその権限を越えて取引をした場合でも、その登記申請が本人の私法上の契約による義務の履行のためのものであるときは、その権限を基本代理権として110条を適用できるとしました(最判昭46.6.3)。
登記申請自体は公法上の行為ですが、私法上の取引の一環として行われるものなので、本人が取引に関わって代理人を使ったとみることができ、本人に責任を負わせる関わりがあるからです。
【最判昭46.6.3 裁判要旨】
本人から登記申請を委任されてこれに必要な権限を与えられた者が右権限をこえて第三者と取引行為をした場合において、その登記申請が本人の私法上の契約による義務の履行のためになされるものであるときは、その権限を基本代理権として、右第三者との問の行為につき民法一一〇条を適用し、表見代理の成立を認めることができる。
4.誤答
Aから契約の勧誘行為をするよう依頼を受けたBが、勧誘行為にとどまらず、Aに無断でCと当該契約を締結した場合、民法第110条の表見代理が成立し得る。
要点勧誘行為という事実行為を任されただけでは、基本代理権があるとはいえない。
妥当でない。判例は、勧誘員が事実上長男に勧誘行為をさせていたというだけでは、長男を代理人として110条を適用することはできないとしました(最判昭35.2.19)。勧誘のような事実行為を任されたことは、代理権(法律行為をする権限)を与えたことにはならないからです。
基本代理権は、本人が法律行為について代理人に権限を与えたという本人の関わりを根拠にするものです。事実上の行為を手伝わせただけでは、代理人を使って取引をする外観を作ったとはいえません。
【最判昭35.2.19 裁判要旨】
勧誘外交員を使用して一般人を勧誘し、金員の借入をしていた会社の勧誘員甲が、事実上長男乙をして一切の勧誘行為にあたらせて来たというだけでは、乙を甲の代理人として民法第一一〇条を適用することはできない。
5.誤答
民法第110条の「第三者」には、無権代理人と直接取引した相手方だけではなく、その取引の相手方からの転得者も含まれる。
要点110条の「第三者」は直接の相手方に限られ、その後の転得者は含まれない。
妥当でない。判例は、代理人が権限を越えて約束手形を振り出した場合に、手形の受取人(直接の相手方)に正当な理由がないときは、その後の手形所持人が正当な理由を持っていても、110条の適用を受けられないとしました(最判昭36.12.12)。「第三者」は直接の相手方に限られます。
表見代理は、代理人と取引した相手方が、その場で代理権を信じたことを保護する制度なので、信頼が問われるのは直接の相手方だからです。転得者は、別の制度(手形法の善意取得など)で保護されます。
【最判昭36.12.12 裁判要旨】
約束手形が代理人によりその権限を越えて振り出された場合、手形受取人がその権限あるものと信ずべき正当の理由を有しないときは、その後の手形所持人は、たといこのような正当理由を有していても、民法第一一〇条の適用を受けることができない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.21
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
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