2025年 国家総合職 問題17
行政法損失補償
【No. 17】土地収用法に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
ア.誤答
土地収用法は、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめる補償がされるべきであるという考えに基づき、収用する土地に対する補償金の額については、収用委員会の裁決の時点を基準として、近傍類地の取引価格等を考慮した相当な価格となるよう算定することとしている。
要点収用する土地の補償金は、事業認定の告示時の価格に物価変動の修正を加えて算定する。
妥当でない。収用する土地の補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額です(土地収用法71条)。収用委員会の裁決の時点の価格を基準とする部分が誤りです。
判例は、事業認定後の近傍類地の値上がりは、一般に事業の影響によるもので、その価値を収用される側が当然に受ける理由はないと重く見て、この算定方法を合憲としました(最判平14.6.11)。
【最判平14.6.11 判決理由】
しかしながら,上記の近傍類地の取引価格の変動は,一般的に当該事業による影響を受けたものであると考えられるところ,事業により近傍類地に付加されることとなった価値と同等の価値を収用地の所有者等が当然に享受し得る理由はないし,事業の影響により生ずる収用地そのものの価値の変動は,起業者に帰属し,又は起業者が負担すべきものである。
【土地収用法 第71条】
(土地等に対する補償金の額)
第七十一条 収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。
イ.誤答
土地収用法は、公共の利益となる事業のため実際に収用又は使用される土地について補償することを原則とするものであるから、同一の所有者によって一体として利用されている一まとまりの土地の一部が収用又は使用されたため、残った土地の価値が減少したとしても、そのような損失は同法に基づく補償の対象外である。
要点一団の土地の一部の収用で残地の価格が減ったときは、その損失を補償する。
妥当でない。同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用・使用したことで、残地の価格が減ったり、その他残地に関して損失が生じたりするときは、その損失を補償しなければなりません(土地収用法74条1項。残地補償)。補償の対象外とする部分が誤りです。
一体として利用されていた土地が分断されると、残った土地も形や利用価値が損なわれます。その損失も収用によって生じたものなので、収用の前後で財産の価値を等しくするために補償の対象とされています。
【土地収用法 第74条第1項】
(残地補償)
第七十四条 同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用し、又は使用することに因つて、残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるときは、その損失を補償しなければならない。
ウ.正答
土地収用法は、損失の補償が行われる時期について、事前補償又は同時補償を原則としており、起業者に対し、裁決において定められた権利取得の時期又は明渡しの期限までに補償金の払渡し等をすることを義務付けているが、耕地の造成や工事の代行により補償する場合などに例外的に事後補償を認めている。
要点補償は権利取得の時期等までに行うのが原則で、耕地の造成などは後でもよい。
妥当である。起業者は、権利取得裁決で定められた権利取得の時期までに補償金の払渡しなどをしなければならず(土地収用法95条1項)、明渡裁決に係る補償金の払渡しなどは明渡しの期限までにしなければなりません(97条1項)。ただし、耕地の造成は、裁決で定められた工事を完了すべき時期までにすればよいとされています(95条6項)。
補償が済まないうちに権利を失うと、被収用者が生活や事業の再建に困るので、補償を先にするのが原則です。工事を要する補償は、性質上、権利取得の時期までに終えることが難しいので、例外とされています。
【土地収用法 第95条第1項・第6項】
(権利取得裁決に係る補償の払渡し又は供託等)
第九十五条 起業者は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに、権利取得裁決に係る補償金、加算金及び過怠金(以下「補償金等」という。)の払渡、替地の譲渡及び引渡又は第八十六条第二項の規定に基く宅地の造成をしなければならない。
6 起業者は、裁決で定められた工事を完了すべき時期までに、権利取得裁決に係る第八十三条第二項の規定に基く耕地の造成をしなければならない。
【土地収用法 第97条第1項】
(明渡裁決に係る補償の払渡し又は供託等)
第九十七条 起業者は、明渡裁決で定められた明渡しの期限までに、明渡裁決に係る補償金の払渡し、第八十五条第二項の規定に基づく物件の移転の代行又は第八十六条第二項の規定に基づく宅地の造成をしなければならない。
エ.正答
土地収用法に基づく収用委員会の裁決のうち損失の補償について不服がある土地所有者は、裁決書の正本の送達を受けた日から6か月以内に、起業者を被告として訴えを提起しなければならない。
要点損失の補償に関する訴えは、送達から6か月以内に起業者を被告として提起する。
妥当である。収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から6か月以内に提起しなければならず(土地収用法133条2項)、土地所有者が提起するときは起業者を被告とします(同条3項)。
補償額の争いは、実質的には起業者と土地所有者の間のお金の争いなので、裁決をした収用委員会ではなく、利害が対立する当事者どうしで争わせる形(形式的当事者訴訟)にしています。
【土地収用法 第133条第2項・第3項】
(訴訟)
2 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
3 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。
オ.誤答
土地収用法は、土地の収用又は使用によって生活の基礎を失うこととなる者が、生活再建のための新たな土地・建物の取得、職業の紹介・訓練等のあっせんを起業者に申し出たときは、起業者が当該申出に係る措置を講じる法的義務を規定している。
要点生活再建措置のあっせんの申出に対し、起業者は措置を講ずるよう努める。
妥当でない。生活の基礎を失うこととなる者は、生活再建のための措置のあっせんを起業者に申し出ることができ、起業者は、事情の許す限り、その措置を講ずるように努めるものとされています(土地収用法139条の2)。法的義務ではなく、努力義務です。
生活再建は金銭補償を補うもので、土地や仕事のあっせんができるかは起業者の手の届く範囲に限られるため、義務ではなく努力義務とされています。
【土地収用法 第139条の2】
(生活再建のための措置)
第百三十九条の二 第二十六条第一項(第百三十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定によつて告示された事業に必要な土地等を提供することによつて生活の基礎を失うこととなる者は、その受ける対償と相まつて実施されることを必要とする場合においては、次に掲げる生活再建のための措置の実施のあつせんを起業者に申し出ることができる。
一 宅地、開発して農地とすることが適当な土地その他の土地の取得に関すること。
二 住宅、店舗その他の建物の取得に関すること。
三 職業の紹介、指導又は訓練に関すること。
2 起業者は、前項の規定による申出があつた場合においては、事情の許す限り、当該申出に係る措置を講ずるように努めるものとする。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.17
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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