2025年 国家総合職 問題10
行政法実効性確保の手段
【No. 10】行政上の義務履行確保に関するア~エの記述のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
ア.正答
行政代執行法第1条は、「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。」と規定しており、ここにいう「法律」には条例は含まれないため、執行罰及び直接強制は法律を根拠規範としなければならず、条例を根拠規範とすることはできないと一般に解されている。
要点代執行法1条の「法律」に条例は含まれず、執行罰・直接強制には法律の根拠が要る。
妥当である。行政代執行法1条の「法律」には、条例は含まれないと一般に解されています。そのため、行政上の義務の履行確保の手段のうち、執行罰や直接強制は法律で定めなければならず、条例で新たに設けることはできません。
同法2条は、代執行の対象となる義務を定める「法律」について、括弧書きで条例を含むと明記しています。1条にはその括弧書きがないので、義務の履行を強制する手段そのものは、法律で定めるものに限る趣旨と読まれます。
【行政代執行法 第1条】
第一条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。
【行政代執行法 第2条】
第二条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
イ.誤答
行政庁が行政行為によって課した義務をそのまま実現するために強制することは、行政行為に当然に備わった効力の発動であり、義務を賦課する行政行為には法律の根拠が必要であるが、当該義務の履行をそのまま強制する行為には独立の法律の根拠は不要であり、行政行為の内容を行政権自らが、裁判所の強制執行手続によらずに実現することができる。
要点義務を課すのとは別に、その義務を強制的に実現するにも法律の根拠が要る。
妥当でない。いまの通説では、義務を課す行政行為に法律の根拠が要るのとは別に、その義務を強制的に実現する行為にも、独立の法律の根拠が必要だと解されています。行政行為には当然に自力で執行できる効力が備わっているとする考え方は、いまは採られていません。
義務を課すことと、実力で義務の内容を実現することは、私人の自由への介入の程度が違う別の行為なので、それぞれに国民の代表である国会の授権が要るからです。
ウ.誤答
行政上の義務の懈怠に対して制裁を科すことを広く行政罰といい、行政上の秩序罰と行政刑罰の二つの種類がある。行政上の秩序罰と行政刑罰は、目的、要件及び実現の手段を異にしているものの、両者の区別は、実質的には必ずしも明確ではないことから、行政上の秩序罰と行政刑罰を併科することはできない。
要点秩序罰としての過料と刑罰は、目的・要件・手続が違うので併科できる。
妥当でない。判例は、秩序罰としての過料と刑罰としての罰金・拘留は、目的、要件及び実現の手続を異にし、二者択一の関係ではないので、併科を妨げないとしました(最判昭39.6.5)。両者の区別が明確でないことを理由に併科できないとする部分が誤りです。
判例の事案は、刑事訴訟で証言を拒んだ証人への過料(訴訟手続の秩序を保つためのもの)と、刑事司法に協力しない行為への刑罰でした。目的が違う制裁を重ねても、同じ行為を二重に処罰することにはならないと判断しています。
【最判昭39.6.5 判決理由】
しかしながら、刑訴一六〇条は訴訟手続上の秩序を維持するために秩序違反行為に対して当該手続を主宰する裁判所または裁判官により直接に科せられる秩序罰としての過料を規定したものであり、同一六一条は刑事司法に協力しない行為に対して通常の刑事訴訟手続により科せられる刑罰としての罰金、拘留を規定したものであつて、両者は目的、要件及び実現の手続を異にし、必ずしも二者択一の関係にあるものではなく併科を妨げないと解すべきであり、…
エ.誤答
行政代執行は、履行期限を代執行令書によって通知した後に、代執行をなすべき時期等を定めて戒告を行い、なお義務が履行されない場合には、実力を行使するという手続で行われる。通知及び戒告は、義務賦課処分以上に新たな内容の義務を課すものではないが、代執行を適法に開始し、進行させるという法効果を持つ。
要点代執行は、戒告をした後に代執行令書で通知し、それから実施する。
妥当でない。代執行の手続の順序は、まず相当の履行期限を定めて文書で戒告し、期限までに履行されないときに、代執行令書で代執行をなすべき時期などを通知するというものです(行政代執行法3条1項・2項)。本肢は、通知と戒告の順序が逆です。
戒告は、義務者に自ら履行する最後の機会を与えるための手続なので、代執行の具体的な時期などを決める通知より先に置かれています。
【行政代執行法 第3条第1項・第2項】
第三条 前条の規定による処分(代執行)をなすには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、予め文書で戒告しなければならない。
義務者が、前項の戒告を受けて、指定の期限までにその義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもつて、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知する。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.10
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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