2025年 国家一般職 問題29
民法事務管理・不当利得
【No. 29】事務管理に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
事務管理は、頼まれていないのに、他人のためにその人の事務(用事)を処理することです。通説では、頼まれていない他人の事務に手を出すことは本来は他人の生活への干渉だが、社会生活での助け合いとして、一定の範囲で認めるのが事務管理だと解されています。
そのため、次の2点が軸になります。
成立するか:義務がなく、他人のためにする場合に限られる(義務がある人や、自分の事務をする人には、事務管理の決まりは要らない)
何が生じるか:管理の仕方や費用の償還など、管理者と本人の間の関係が定まる。管理者に本人を代理する権限が生じるわけではない
ア.誤答
親が、その親権に基づき、法定代理人として、子の事務を行う場合にも事務管理が成立する。
要点法律上の義務に基づいて他人の事務をするときは、事務管理は成立しない。
妥当でない。事務管理が成立するのは、義務なく他人のために事務の管理を始めた場合です(民法697条1項)。親は、親権に基づいて子の財産を管理し、子を代表する権限と義務を持つので(824条)、子の事務を行っても事務管理は成立しません。
事務管理は、義務も権限もない人が他人の事務を処理したときに、本人との間の権利義務を決める制度です。親権者のように法律で権限と義務が定められている人は、その規定によって本人との関係が決まるので、事務管理の決まりを使う必要がありません。
【民法 第697条第1項】
(事務管理)
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
【民法 第824条】
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
イ.正答
管理者が本人の意思に反して事務管理をした場合、管理者は、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、本人のために支出した有益な費用の償還を請求することができる。
要点本人の意思に反する管理では、現に利益を受ける限度でのみ費用を請求できる。
妥当である。管理者は、本人のために支出した有益な費用の償還を請求できますが(民法702条1項)、本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ請求できます(同条3項)。
管理者は、本人の意思が分かるときは、それに従わなければなりません(697条2項)。意思に反して事務をした管理者に費用の全部を請求させると、本人は望まない出費を強いられます。そこで、本人に実際に残った利益の範囲で償還させ、管理者の負担と本人の意思を調整しています。
【民法 第702条第1項・第3項】
(管理者による費用の償還請求等)
第七百二条 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
3 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。
【民法 第697条第2項】
(事務管理)
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
ウ.正答
管理者が本人の名で第三者との間で法律行為をしても、当然には本人に効果が及ぶものではなく、本人に効果を発生させるためには、代理その他別個の法律関係が必要となる。
要点管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然には本人に及ばない。
妥当である。判例は、管理者が本人の名で第三者と法律行為をしても、その効果は当然には本人に及ばず、本人に効果を生じさせるには、代理その他の別の法律関係が必要だとしました(最判昭36.11.30)。
判例は、事務管理は管理者と本人との間の法律関係であり、管理者が第三者とした行為の効果が本人に及ぶかは、事務管理の問題ではないとしています。事務管理は管理者に代理権を与える制度ではないので、本人は、追認などをしない限り、知らないうちにされた契約に拘束されません。
【最判昭36.11.30 判決理由】
…事務管理は、事務管理者と本人との間の法律関係を謂うのであつて、管理者が第三者となした法律行為の効果が本人に及ぶ関係は事務管理関係の問題ではない。従つて、事務管理者が本人の名で第三者との間に法律行為をしても、その行為の効果は、当然には本人に及ぶ筋合のものではなく、そのような効果の発生するためには、代理その他別個の法律関係が伴うことを必要とするものである。
エ.誤答
管理者は、本人の身体等に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をする場合を除き、自己の財産に対するのと同一の注意をもって管理に当たれば足りる。
要点管理者は、原則として善良な管理者の注意をもって事務を管理する。
妥当でない。管理者は、最も本人の利益に適合する方法で管理しなければならず(民法697条1項)、通説では、原則として善良な管理者の注意(その立場の人に通常求められる注意)を負うと解されています。自己の財産に対するのと同一の注意(自分の物を扱う程度の注意)では足りません。頼まれずに他人の事務に手を出した以上、本人の利益を第一にして管理すべきだからです。
注意が軽くなるのは、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるための事務管理(緊急事務管理)で、悪意又は重大な過失がなければ損害を賠償しなくてよいとされています(698条)。
【民法 第697条第1項】
(事務管理)
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
【民法 第698条】
(緊急事務管理)
第六百九十八条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
オ.誤答
共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し、納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したときは、他人のために事務を管理したものとして、事務管理が成立する。
要点自己の所得として申告し所得税を納付しても、事務管理は成立しない。
妥当でない。判例は、共有者の1人が共有不動産の賃料を全額自分の収入として申告し、所得税を過大に納付しても、他人のために事務を管理したとはいえず、事務管理は成立しないとしました(最判平22.1.19)。
判例は、所得税の納税義務を負うのは申告をした本人で、過大に申告しても、ほかの共有者がその分の納税義務を負うわけではなく、ほかの共有者の納税義務が消えるわけでもないとしています。過大な分を含めて、自分の税を納めたにすぎないので、自己の事務です。
【最判平22.1.19 判決理由】
本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として所得金額を計算したため税額を過大に申告した場合であっても,それにより当該他人が過大に申告された分の所得税の納税義務を負うわけではなく,申告をした者が申告に係る所得税額全額について納税義務を負うことになる。また,過大な申告をした者が申告に係る所得税を全額納付したとしても,これによって当該他人が本来負うべき納税義務が消滅するものではない。したがって,共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,過大に納付した分を含め,所得税の申告納付は自己の事務であるから,他人のために事務を管理したということはできず,…
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.29
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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