2025年 国家一般職 問題25
民法抵当権
【No. 25】物上代位に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
物上代位は、抵当権の目的物が売られたり、貸されたり、壊されたりしたときに、その代わりに所有者が受ける金銭(売買代金、賃料、保険金など)にも、抵当権を及ぼす仕組みです(民法372条で304条を準用)。通説では、抵当権は目的物の価値から優先して弁済を受ける権利なので、その価値が金銭に形を変えれば、金銭にも及ぶと解されています。
ただし、抵当権者は、その金銭が払い渡される前に、自分で差し押さえなければなりません。差押えの前後で、支払う側や、その債権について権利を得た人との関係が変わります。
【民法 第304条】
(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
【民法 第372条】
(留置権等の規定の準用)
第三百七十二条 第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
ア.誤答
賃貸人が所有する抵当不動産の賃借人が当該抵当不動産を転貸した場合、抵当権者は、当該賃借人を抵当不動産の所有者と同視することを相当とするときを除き、当該賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができる。
要点抵当権者は、原則として転貸賃料債権に物上代位できない。
妥当でない。判例は、抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視するのが相当な場合を除き、賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使できないとしました(最決平12.4.14)。本肢は、原則と例外を逆にしています。
判例は、所有者は抵当不動産で債務の責任を負う立場にあるのに対し、賃借人はそのような責任を負わず、自分の債権を債務の弁済に充てられる立場にないこと、転貸賃料に物上代位を認めると、正常な取引で転貸した賃借人の利益を不当に害することを理由にしています。
【最決平12.4.14 判決理由】
けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。
イ.誤答
敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときであっても、敷金の充当によって当該賃料債権が消滅することはない。
要点差し押さえた賃料債権も、明渡しの時に敷金の充当で消滅する。
妥当でない。判例は、敷金が授受された賃貸借の賃料債権を、抵当権者が物上代位で差し押さえた場合でも、賃貸借が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によってその限度で消滅するとしました(最判平14.3.28)。
判例は、敷金の充当は敷金契約から当然に生じる効果で、相殺のような意思表示は要らないこと、抵当権者は差押えの前は不動産の賃貸に口を出せず、所有者は敷金契約を自由に結べるので、賃料債権は初めから敷金の充当を予定した債権になることを理由にしています。
【最判平14.3.28 判決理由】
このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから,民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである。 また,抵当権者は,物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は,原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから,抵当不動産の所有者等は,賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができる。したがって,敷金契約が締結された場合は,賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり,このことを抵当権者に主張することができるというべきである。
ウ.正答
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することができない。
要点差押え後は、登記後に取得した債権による相殺を抵当権者に対抗できない。
妥当である。判例は、抵当権者が物上代位で賃料債権を差し押さえた後は、賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権(相殺に使う自分の債権)とする相殺を、抵当権者に対抗できないとしました(最判平13.3.13)。
判例は、差押えの前は賃借人の相殺は制限されないが、差押えの後は抵当権の効力が賃料債権に及んでおり、それは抵当権設定登記で公示されているとみることができるので、登記の後に取得した債権で相殺できるという賃借人の期待を、抵当権の効力より優先させる理由はないとしています。
【最判平13.3.13 判決理由】
けだし,物上代位権の行使としての差押えのされる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後においては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。
エ.誤答
抵当権者は、物上代位の目的債権の転付命令が第三債務者に送達され、その確定により目的債権が差押債権者に移転した場合においても、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
要点転付命令の送達前に差し押さえなければ、物上代位はできない。
妥当でない。判例は、物上代位の目的となる債権について転付命令(差し押さえた債権を差押債権者に移す裁判所の命令)が出た場合、それが第三債務者に送達される時までに抵当権者が差し押さえなかったときは、転付命令の効力を妨げられないとしました(最判平14.3.12)。
判例は、転付命令は、送達の時までに他の債権者が差し押さえていないことを条件に、差押債権者にその債権を独占させる制度であり、物上代位による差押えも、強制執行の差押えと同じ決まりに従うべきことを理由にしています。債権が譲渡されただけの場合と違い、執行の手続で債権が移っている点が重く見られています。
【最判平14.3.12 判決理由】
けだし,転付命令は,金銭債権の実現のために差し押さえられた債権を換価するための一方法として,被転付債権を差押債権者に移転させるという法形式を採用したものであって,転付命令が第三債務者に送達された時に他の債権者が民事執行法159条3項に規定する差押等をしていないことを条件として,差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執行法159条3項,160条),他方,抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすためには,自ら被転付債権を差し押さえることを要し…
オ.正答
抵当権者は、抵当権設定登記の後に、抵当権に基づく物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた場合であっても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
要点目的債権が譲渡され対抗要件が備えられた後でも、物上代位はできる。
妥当である。判例は、民法304条1項ただし書の「払渡し又は引渡し」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、目的債権が譲渡されて第三者に対する対抗要件が備えられた後でも、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使できるとしました(最判平10.1.30)。
判例は、差押えを求める主な目的は、支払う側(第三債務者)を二重払いの危険から守ることにあるとしました。譲渡の後に差し押さえても第三債務者は害されず、抵当権の効力が目的債権に及ぶことは登記で公示されており、譲渡を優先させると、設定者が差押え前に債権を譲渡するだけで物上代位を免れられることも挙げています。
【最判平10.1.30 判決理由】
民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.25
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。