2025年 国家一般職 問題13
憲法信教の自由
【No. 13】信教の自由に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
信教の自由は極めて重要な人権ですが(憲法20条)、信仰に基づく外部の行為の自由は、絶対無制限ではありません。判例は、規制が信仰そのものを狙ったものか、宗教と関係のない(世俗的な)目的のものかと、規制によって信仰の実践にどれだけの不利益が生じるかを見て判断しています。
また、信教の自由は誰にでも保障されるので、自分と相容れない信仰を持つ人の宗教上の行為に対しても、それが強制や不利益を伴って自分の信教の自由を妨げるものでない限り、寛容であることが求められます。
【日本国憲法 第20条】
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
ア.誤答
他者から自己の欲しない刺激によって心を乱されないという心の静穏の利益も、不法行為法上、被侵害利益となり得るのであって、妻が自己の信仰する宗教によって亡夫を宗教的に取り扱おうとしているのに、その意に反して他の宗教により祀られ、その宗教行事への参加を求められるなどの事情があるときは、正に宗教上の心の静穏を乱されるものであり、法的利益の侵害が認められる。
要点信仰生活の静謐が害されても、それだけで法的利益の侵害とはいえない。
妥当でない。私人の宗教上の行為で信仰生活の静謐(せいひつ。静かで穏やかなこと)が害されても、信教の自由の侵害に当たり、態様、程度が社会的に許容し得る限度を超える場合でない限り、法的利益が侵害されたとはいえません(最大判昭63.6.1)。
判例は、宗教上の感情を理由に損害賠償や差止めを認めると、かえって相手方の信教の自由を妨げると重く見ました。強制や不利益を伴わない限り、他者の信仰の行為には寛容であることを求める考え方です。
【最大判昭63.6.1 判決理由】
しかし、人が自己の信仰生活の静謐を他者の宗教上の行為によつて害されたとし、そのことに不快の感情を持ち、そのようなことがないよう望むことのあるのは、その心情として当然であるとしても、かかる宗教上の感情を被侵害利益として、直ちに損害賠償を請求し、又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば、かえつて相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ることは、見易いところである。信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものというべきである。このことは死去した配偶者の追慕、慰霊等に関する場合においても同様である。何人かをその信仰の対象とし、あるいは自己の信仰する宗教により何人かを追慕し、その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は、誰にでも保障されているからである。原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。
イ.誤答
信教の自由は基本的人権の一つとして極めて重要なものであるため、精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加持祈祷行為がなされ、当該行為が刑法上の犯罪構成要件に当たる場合には、当該行為は、その基礎となった信仰内容の当否を審査し、その正当性が認められないときに限り、処罰の対象となる。
要点加持祈祷による傷害致死は、信教の自由の保障の限界を逸脱し、処罰される。
妥当でない。加持祈祷が宗教行為でも、他人の生命、身体に危害を及ぼす違法な有形力の行使で被害者を死なせた以上、信教の自由の保障の限界を逸脱したもので、処罰は憲法20条1項に反しません(最大判昭38.5.15)。判例が見たのは信仰の内容の当否ではなく、行為の動機、手段、方法と暴行の程度です。
判例は、基本的人権は濫用してはならず、公共の福祉に反しない限りで尊重されるという憲法の定めから、信教の自由も絶対無制限ではないとしました。
【最大判昭38.5.15 判決理由】
しかし、およそ基本的人権は、国民はこれを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うべきことは憲法一二条の定めるところであり、また同一三条は、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする旨を定めており、これら憲法の規定は、決して所論のような教訓的規定というべきものではなく、従つて、信教の自由の保障も絶対無制限のものではない。
【最大判昭38.5.15 裁判要旨】
一 精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加持祈祷行為がなされた場合でも、それが原判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、それにより被害者を死に致したものである以上、憲法第二〇条第一項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを刑法第二〇五条に該当するものとして処罰することは、何ら憲法の右条項に反するものではない。
ウ.正答
法に基づく解散命令によって宗教法人が解散しても、当該解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないものであり、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに調えることが妨げられるわけでもない。
要点宗教法人の解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止・制限する法的効果を伴わない。
妥当である。判例は、解散命令は宗教法人の法人格を失わせるもので、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないとしました(最決平8.1.30)。
判例は、宗教法人法による規制が、宗教団体の世俗的側面(財産の所有・管理など)だけを対象とし、精神的・宗教的側面には介入しないことを重く見ました。財産の処分による支障は間接的で事実上のもので、組織的なサリン生成に対処するために必要でやむを得ない規制だとしています。
【最決平8.1.30 判決理由】
すなわち、法による宗教団体の規制は、専ら宗教団体の世俗的側面だけを対象とし、その精神的・宗教的側面を対象外としているのであって、信者が宗教上の行為を行うことなどの信教の自由に介入しようとするものではない…
【最決平8.1.30 判決理由】
したがって、解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに調えることが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないのである。
エ.誤答
信仰上の理由により、剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生が原級留置処分及び退学処分を受けた場合に、当該処分が、信仰の自由や宗教的行為に対する制約を特に目的とするものではなく、教育内容の設定及びその履修に関する評価方法についての一般的な定めに従ったものであるならば、それは必要でやむを得ない制約であり、むしろレポート提出等の代替措置を採ることは、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものである。
要点代替措置を検討せずにした原級留置・退学処分は、裁量権の範囲を超え違法である。
妥当でない。一般的な定めに従った処分でも、不利益を避けるには教義に反する行動を採らざるを得ない性質を持つ以上、相応の考慮が必要で、代替措置を何ら検討しない処分は裁量権の範囲を超える違法なものです(最判平8.3.8)。
また、レポート提出などの代替措置は、目的が宗教的意義を持つものでも、効果が特定の宗教を援助、助長、促進するものでもなく、政教分離に反しません。
判例は、拒否が信仰の核心に関わる真しな理由によること、不利益が極めて大きいこと、剣道は必須とまではいえず代わりの方法もあったことを重く見ました。
【最判平8.3.8 判決理由】
上告人の採った措置が、信仰の自由や宗教的行為に対する制約を特に目的とするものではなく、教育内容の設定及びその履修に関する評価方法についての一般的な定めに従ったものであるとしても、本件各処分が右のとおりの性質を有するものであった以上、上告人は、前記裁量権の行使に当たり、当然そのことに相応の考慮を払う必要があったというべきである。
【最判平8.3.8 判決理由】
…信仰上の真しな理由から剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、…
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.13
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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