2024年 国家総合職 問題4
憲法人身の自由
【No. 4】裁判を受ける権利に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
判例は、裁判を受ける権利(憲法32条)の中身を、憲法や法律が定めた裁判所でだけ裁判を受け、裁判所以外の機関に裁判をされないこと、そして、性質上裁判所が判断すべき純然たる訴訟事件について、裁判所の判断を求められることだと捉えています。
そのため、どの裁判所で、どのような手続や期間で、何回まで争えるかといった制度の具体的な作り方は、実質上裁判の拒否に当たるような場合でない限り、法律に委ねられています。
【日本国憲法 第32条】
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
1.誤答
裁判を受ける権利を実質的に保障するため、憲法は、刑事裁判に関して、国選弁護人について規定している。また、憲法は、民事裁判に関しても、国が法律扶助を行うことを義務付けており、具体的には、総合法律支援法に基づき設立された独立行政法人「日本司法支援センター(法テラス)」が民事法律扶助業務を担っている。
要点憲法は、民事裁判について国が法律扶助を行うことを義務付けていない。
妥当でない。前半のとおり、刑事被告人が自ら弁護人を依頼できないときに国が弁護人を付けること(国選弁護人)は、憲法37条3項に定めがあります。しかし、民事裁判での法律扶助を国に義務付ける規定は、憲法にはありません。法テラスの民事法律扶助業務は、総合法律支援法という法律で設けられた制度です。
刑事裁判では、国が刑罰を科すために個人を訴追するので、憲法自らが、被告人に弁護人の援助を保障しています。民事裁判は私人どうしの争いで、扶助の仕組みをどう作るかは、立法の判断に委ねられています。
【日本国憲法 第37条第3項】
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
2.誤答
憲法は、民事法規については、法律がその効果を遡及せしめることを禁じていないが、裁判を受ける権利の中核である出訴の権利について、出訴期間を新法によって遡及して短縮することは、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合でなくとも、憲法第32条に違反する。
要点出訴期間の遡及短縮は、著しく不合理で裁判の拒否と認められない限り合憲である。
妥当でない。判例は、出訴期間を新法で遡って短縮しても、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合でない限り、憲法32条に違反しないとしました(最大判昭24.5.18)。その場合でなくとも違反するとする部分が誤りです。
判例は、刑罰法規と違い、民事の法規については憲法が遡って効果を及ぼすことを禁じておらず、出訴期間のような救済の方法も、公共の福祉が求めれば変更できると考えました。そのうえで、出訴の機会を実質的に奪うほどの短縮だけが、裁判を受ける権利の侵害になるとしています。
【最大判昭24.5.18 判決理由】
しかし、刑罰法規については憲法第三九条によつて事後法の制定は禁止されているけれども、民事法規については憲法は法律がその効果を遡及せしめることを禁じてはいないのである。従て民事訴訟上の救済方法の如き公共の福祉が要請する限り従前の例によらず遡及して之を変更することができると解すべきである。出訴期間も民事訴訟上の救済方法に関するものであるから、新法を以て遡及して短縮しうるものと解すべきであつて、改正前の法律による出訴期間が既得権として当事者の権利となるものではない。そして新法を以て遡及して出訴期間を短縮することができる以上は、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合でない限り憲法第三二条に違反するということはできない。
3.誤答
いかなる事由を理由に上告をすることを許容するかは審級制度の問題であって、憲法第81条に定める場合を除いて立法政策に委ねられているところ、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由として最高裁判所に上告をすることを許容しない民事訴訟法の規定は、憲法第32条に違反する。
要点法令違反を上告理由として認めない民事訴訟法の規定は、憲法32条に違反しない。
妥当でない。判例は、どのような事由で上告を許すかは審級制度の問題で、憲法81条の場合を除いて立法に委ねられているとし、法令の違反を理由とする最高裁判所への上告を認めない民事訴訟法の規定(312条、318条)は、憲法32条に違反しないとしました(最判平13.2.13)。前半は判例のとおりで、結論が逆です。
32条が保障するのは裁判所で裁判を受けることで、何回まで上の裁判所で争えるかまでは保障していません。憲法が上告について自ら求めているのは、最高裁判所が憲法適合性を決める終審裁判所であること(81条)だけなので、それ以外の上告の範囲は法律で決められます。
【最判平13.2.13 裁判要旨】
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由として最高裁判所に上告をすることを許容しない民訴法312条及び318条の規定は,憲法32条に違反しない。
【最判平13.2.13 判決理由】
しかしながら,いかなる事由を理由に上告をすることを許容するかは審級制度の問題であって,憲法が81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねていると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである…
【日本国憲法 第81条】
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
4.正答
憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定しているが、その趣旨は、国民は、憲法又は法律に定められた裁判所においてのみ裁判を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によって裁判をされることはないことを保障したものであって、訴訟法で定める管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利を保障したものではない。
要点32条は、管轄権を有する具体的裁判所で裁判を受ける権利までは保障しない。
妥当である。判例は、32条が保障するのは、憲法や法律が定めた裁判所でだけ裁判を受け、裁判所以外の機関によって裁判をされないことで、訴訟法の定める管轄権を持つ具体的な裁判所で裁判を受ける権利までは保障していないとしました(最大判昭24.3.23)。管轄違いの裁判所が裁判をしても、訴訟法の違反にとどまり、憲法違反にはなりません。
32条が防ごうとしているのは、裁判所でない機関に裁判をされることです。どの裁判所が担当するか(管轄)は、事件を裁判所の間で割り振るための訴訟法上の決まりで、どの裁判所でも裁判所で裁判を受けることに変わりはありません。
【最大判昭24.3.23 判決理由】
按ずるに憲法第三二条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪はれないと規定しているが、同条の趣旨は凡て国民は憲法又は法律に定められた裁判所においてのみ裁判を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によつて裁判をされることはないことを保障したものであつて、訴訟法で定める管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利を保障したものではない。
5.誤答
婚姻費用の分担に関する処分の審判は本質的には非訟事件であるが、当該審判に関しては、憲法第32条の趣旨に照らし、即時抗告により不利益な変更を受ける当事者が即時抗告の抗告状等の送付を受けるなどして反論の機会を与えられるべき相当の理由があるから、当該審判に対する抗告審が、抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をした場合には、同条に違反する。
要点非訟事件の抗告審で反論の機会を与えなくても、32条違反にはならない。
妥当でない。判例は、32条の裁判を受ける権利は、純然たる訴訟事件について裁判所の判断を求める権利だとし、本質的に非訟事件である婚姻費用の分担の審判の抗告審では、相手方に反論の機会を与えずに不利益な判断をしても、32条に違反しないとしました(最決平20.5.8)。
非訟事件は、権利の存否を確定する訴訟と違い、裁判所が後見的な立場から、裁量で具体的な法律関係を形成する手続です。なお、その後に制定された家事事件手続法は、原則として抗告状の写しを相手方に送ることを定めています。
【最決平20.5.8 判決理由】
…憲法32条所定の裁判を受ける権利が性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断を求めることができる権利をいうものであることは,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和26年(ク)第109号同35年7月6日大法廷決定・民集14巻9号1657頁,最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。したがって,上記判例の趣旨に照らせば,本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は,同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないというべきであるから,原審が,抗告人(原審における相手方)に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできず,本件抗告理由のうち憲法32条違反の主張には理由がない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.4
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
- このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
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