2024年 国家総合職 問題3
憲法思想・良心の自由
【No. 3】思想及び良心の自由に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
思想・良心の自由は、心の中で何を考え、何を信じるかの自由です。判例は、ある行為を命じることが、特定の思想を持つことの強制や禁止、思想の有無の告白の強要、反省や謝罪のような倫理的な意思の表明の強制に当たるかで、思想・良心の自由を直接に制約するかを判断しています。
もっとも、ある行為を求められることが、その人の思想・良心に由来する行動と食い違う場合には、間接的な制約となる面があります。その場合は、目的・内容と制約の態様を比べて、制約を許容し得る程度の必要性と合理性があるかで判断されます(最判平23.5.30)。
【最判平23.5.30 判決理由】
したがって,このような間接的な制約が許容されるか否かは,職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して,当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
【日本国憲法 第19条】
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
ア.正答
医療法人に対し、誓約書という題の下に、「当社団が行った次の行為は、X県地方労働委員会により不当労働行為と認定されました。当社団は、ここに深く反省するとともに今後、再びかかる行為を繰り返さないことを誓約します。」との文言を墨書した掲示板を当該法人経営の病院入口に掲示するよう命じたポストノーティス命令は、当該法人に対し反省等の意思表明を強制するものではなく、憲法第19条に違反しない。
要点ポストノーティス命令は反省等の意思表明を強制するものでなく、19条に違反しない。
妥当である。判例は、本肢のようなポストノーティス命令は、使用者に反省等の意思表明を強制するものではないとして、憲法19条違反の主張を退けました(最判平2.3.6)。ポストノーティス命令とは、労働委員会が、不当労働行為と認定したことなどを書いた文書を使用者に掲示させる命令です。
判例は、この命令が、不当労働行為と認定されたことを関係者に周知し、同じ行為の再発を防ぐためのものであることを重く見ました。掲示文の「深く反省する」などの文言も、繰り返さない約束を強調する意味にとどまるとしています。
【最判平2.3.6 判決理由】
…右ポストノーティス命令が、労働委員会によって上告人の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかである。右掲示文には「深く反省する」、「誓約します」などの文言が用いられているが、同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないものであり、上告人に対し反省等の意思表明を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解される。してみると、右命令は上告人に対し反省等の意思表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法一九条違反の主張は、その前提を欠くというべきである。
イ.誤答
企業内においても労働者の思想、信条等の精神的自由は十分尊重されるべきであるから、企業が、企業秘密の漏えいに絡んだ調査活動の一環として、職員に特定の政党の党員であるか否かを尋ね、かつ、党員でない旨を書面で提出するよう求めることは、書面提出の要求が強要や不利益の示唆にわたるものではなかったとしても、調査方法として不相当な面があるといわざるを得ず、社会的に許容し得る限界を超えて職員の精神的自由を侵害した違法行為であり、憲法第19条に違反する。
要点強要や不利益の示唆を伴わない党員か否かの調査・書面要求は、違法とはいえない。
妥当でない。判例は、企業秘密の漏えいの調査の中で、職員に特定の政党の党員かどうかを尋ね、党員でない旨の書面の提出を求めたことについて、調査方法として不相当な面はあるが、強要や不利益の示唆を伴わない以上、社会的に許容し得る限界を超えた違法行為とはいえないとしました(最判昭63.2.5)。
また、憲法19条は、企業と労働者のような私人どうしの関係に直接適用されません(最大判昭48.12.12)。私人どうしでは、侵害が社会的に許容し得る限度を超えるときに、民法の規定などで調整するのが判例の考え方です。
【最大判昭48.12.12 裁判要旨】
一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。
【最大判昭48.12.12 判決理由】
すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。
ウ.誤答
公立高等学校の校長が教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令について、かかる起立斉唱行為は、学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものではあるが、当該起立斉唱行為を求められることが当該教諭個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなる場合には、当該教諭の思想及び良心の自由を制約するものであり、当該起立斉唱行為を命じた職務命令は憲法第19条に違反する。
要点起立斉唱の職務命令は、間接的な制約の面はあるが、19条に違反しない。
妥当でない。前半の、起立斉唱行為を求められることが思想及び良心の自由の間接的な制約となる面がある点は判例のとおりですが、判例は、その制約を許容し得る程度の必要性と合理性があるとして、職務命令は憲法19条に違反しないとしました(最判平23.5.30)。
判例は、職務命令が、学校の儀式的行事の意義などを定めた法令の趣旨に沿い、公務員の職務の公共性を踏まえて、式典の秩序と円滑な進行を図るものであることを重く見ました。
【最判平23.5.30 判決理由】
これらの点に照らすと,本件職務命令は,公立高等学校の教諭である上告人に対して当該学校の卒業式という式典における慣例上の儀礼的な所作として国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とするものであって,高等学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い,かつ,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえた上で,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであるということができる。 以上の諸事情を踏まえると,本件職務命令については,前記のように外部的行動の制限を介して上告人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの,職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。 (4) 以上の諸点に鑑みると,本件職務命令は,上告人の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当である。
エ.正答
「他人の名誉を毀損した者に対して被害者の名誉を回復するに適当な処分」として謝罪広告を新聞紙等に掲載すべきことを加害者に命ずる判決は、その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては、加害者の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害するものではなく、これを強制執行することも許される。
要点単に真相を告白し陳謝の意を表明する程度の謝罪広告の強制は、合憲である。
妥当である。謝罪広告の内容が、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度なら、掲載を命ずる判決は、加害者の倫理的な意思、良心の自由を侵害せず、強制執行(ほかの者に掲載させ、費用を加害者に負担させる代替執行)もできます(最大判昭31.7.4)。根拠の民法723条の「名誉を回復するに適当な処分」は、現在の条文では「名誉を回復するのに適当な処分」です。
判例は、本件の広告が、公表した事実が虚偽で不当だったと発表させるにとどまり、屈辱的・苦役的な労苦を科すものではないことを重く見ました。内容によっては、強制が良心の自由を不当に制限し、強制執行に適さない場合もあり得るとしています。
【最大判昭31.7.4 判決理由】
尤も謝罪広告を命ずる判決にもその内容上、これを新聞紙に掲載することが謝罪者の意思決定に委ねるを相当とし、これを命ずる場合の執行も債務者の意思のみに係る不代替作為として民訴七三四条に基き間接強制によるを相当とするものもあるべく、時にはこれを強制することが債務者の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由乃至良心の自由を不当に制限することとなり、いわゆる強制執行に適さない場合に該当することもありうるであろうけれど、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものにあつては、これが強制執行も代替作為として民訴七三三条の手続によることを得るものといわなければならない。
【最大判昭31.7.4 判決理由】
されば少くともこの種の謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる原判決は、上告人に屈辱的若くは苦役的労苦を科し、又は上告人の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられないし、また民法七二三条にいわゆる適当な処分というべきであるから所論は採用できない。
【民法 第723条】
(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.3
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
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- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
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