2024年 国家総合職 問題29
民法事務管理・不当利得
【No. 29】不当利得に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
不当利得は、法律上の原因なく他人の財産や労務で利益を受け、他人に損失を与えた人(受益者)に、その利益を返させる制度です。判例は、この制度を、正当な理由のない利得を、公平の観念に基づいて返させるものだとしています(最判昭49.9.26)。
その一方で、民法は、損失者が自分から給付した場合について、返還を求められない場面も定めています。給付した人を守る理由がないとき(債務がないと知りながら進んで払った、不法な原因のために給付した)や、受け取った側を守るべきとき(債権者が弁済を信じて証書や担保を失った)です。何をどこまで返すかに迷ったら、どうすれば当事者の間が公平になるかを考えます。
【最判昭49.9.26 判決理由】
およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるものである…
ア.誤答
AがBに対して自己所有の動産甲を賃貸したところ、甲が故障したため、BがCに甲の修繕を依頼した。その後、Cは修繕を終えて甲をBに返還したが、BはCに報酬を支払うことなく行方不明となってしまった。この場合、AB間の賃貸借契約において賃料が特段低廉に設定されていたわけでもないのに甲の修繕費用をBが全て負担する旨の特約があったときでも、Cは、甲を回収したAに対して、BがCに支払っていない報酬分相当額を不当利得として返還請求することはできない。
要点所有者が対価関係なしに修繕の利益を受けたときは、修繕者は返還を請求できる。
妥当でない。判例は、賃借人の依頼で修繕した者との関係で、所有者が法律上の原因なく利益を受けたといえるのは、賃貸借契約を全体としてみて、所有者が対価関係なしに利益を受けたときに限られるとしています(最判平7.9.19)。本肢では、賃料を低くするなどの見返りなしに修繕費用をBの負担とする特約があるので、Aは対価関係なしに利益を受けています。Cは、Bに対する報酬債権を回収できない限度で、Aに返還を請求できます。
所有者が権利金の免除などの形で利益に見合う負担をしていれば、返還させると所有者に二重の負担を強いることになります。見返りがなければ、その心配はありません。
【最判平7.9.19 判決理由】
…右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。
イ.誤答
Aから100万円を騙し取ったBは、そのうち5万円をギャンブルにつぎ込んだものの、残りの95万円は自己の債権者Cへの弁済に充てた。この場合、Aから騙し取られた100万円と弁済に充てられた95万円との間には同一性が認められない以上、Aの100万円の損失とCの95万円の利得との間に因果関係は認められないため、Cにおいて同利得分の不当利得は成立し得ない。
要点騙取金と弁済金に社会通念上の連結があれば、因果関係が認められる。
妥当でない。判例は、だまし取られた金銭が、両替や預金、一部の費消などを経て弁済に充てられても、社会通念上の連結があれば因果関係があり、弁済を受けた債権者に悪意又は重大な過失があれば不当利得となるとしています(最判昭49.9.26)。金銭の同一性がないことから、因果関係を否定することはできません。
金銭は、混ぜたり両替したりすると、物としてはすぐに別のものになります。判例は、物としての同一性にこだわらず、社会通念上のつながりで判断して、だまし取られた人と、事情を知りながら受け取った債権者との間の公平を図っています。
【最判昭49.9.26 裁判要旨】
一、甲が、乙から騙取又は横領した金銭を、自己の金銭と混同させ、両替し、銀行に預け入れ、又はその一部を他の目的のため費消したのちその費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、これをもつて自己の丙に対する債務の弁済にあてた場合でも、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認めるに足りる連結があるときは、乙の損失と丙の利得との間には、不当利得の成立に必要な因果関係があると解すべきである。
二、甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となる。
ウ.誤答
AとBが賭博をした結果、Aが負けたため、Bに対して100万円を支払った。その後、その100万円が惜しくなったAは、Bに対してその返還を請求した。この場合、賭博契約は公序良俗違反により無効であり、Bは法律上の原因なく利得を得ていることになるため、Aの当該返還請求は認められる。
要点賭博に負けて支払った金銭は、不法原因給付として返還を請求できない。
妥当でない。賭博の契約が公序良俗に反して無効であること(民法90条)は、そのとおりです。しかし、賭博に負けて支払うことは不法な原因のための給付なので、Aは返還を請求できません(708条本文)。不法な原因はBだけにあるのではないので、ただし書にも当たりません。
判例は、708条は、自ら反社会的な行為をした者に、その行為の結果を元に戻すよう裁判所に求めることを許さない趣旨だとしています(最大判昭45.10.21)。賭博をしたAも反社会的な行為をしているので、返還を助ける理由がありません。
【最大判昭45.10.21 判決理由】
けだし、同条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから…
【民法 第90条】
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
【民法 第708条】
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
エ.誤答
Aは、不倫関係にあったBに対して、不倫関係を継続することを目的として、未登記の自己所有のマンション甲を贈与して引き渡したが、その1年後に、二人の関係が悪化した。この場合、当該贈与契約は公序良俗違反により無効であって、甲の所有権はAに帰属したままであるため、Aは、Bに対して、不当利得に基づく返還請求をすることができるとともに、所有権に基づく返還請求をすることもできる。
要点未登記建物の不法原因贈与では、所有権に基づく返還請求もできない。
妥当でない。判例は、不倫関係を続ける目的で未登記の建物を贈与して引き渡した事案で、引渡しは708条の給付に当たり、贈与者は所有権に基づいても返還を請求できず、その反射的効果として、所有権は受贈者に帰属するとしました(最大判昭45.10.21)。Aはどちらの返還請求もできず、甲の所有権はBに帰属します。
未登記の建物は、引き渡せば贈与者がすべきことは終わるので、引渡しが給付になります。所有権を理由にすれば返還を求められるとすると、708条が返還を認めない意味がなくなります。
【最大判昭45.10.21 裁判要旨】
一、不法の原因により未登記建物を贈与した場合、その引渡は、民法七〇八条にいう給付にあたる。
二、建物の贈与に基づく引渡が不法原因給付にあたる場合に、贈与者は、目的物の所有権が自己にあることを理由として、右建物の返還を請求することはできない。
三、建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、右建物の所有権は、受贈者に帰属するに至ると解するのが相当である。
【民法 第708条】
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
オ.正答
Aの保有する株式をBが勝手にCに100万円で売却し、その売却代金を得た。その後、その株式は値上がりし、Cはその株式を売却して、150万円の売却代金を得た。この場合、原則として、Aは、Bに対して、値上がりした株式の売却代金相当額である150万円を不当利得として返還請求することはできない。
要点代替物を売却した受益者は、原則として売却代金相当額を返還すれば足りる。
妥当である。判例は、法律上の原因なく代替性のある物(株式のように、同じ種類の物で代えがきく物)を利得した受益者が、それを売却したときは、原則として売却代金相当額の金銭を返す義務を負うとしました(最判平19.3.8)。Bが返すのは、受け取った100万円に当たる額で、その後の値上がりを反映した150万円ではありません。
その後の値動きに合わせて返す額を変えると、値上がりすれば手元にある以上の額を返し、値下がりすれば手元の代金の一部を返さずに済むことになります。判例は、どちらも公平でなく、受けた利益を返すという不当利得の本質に合わないとしました。
【最判平19.3.8 判決理由】
受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し,その後これを第三者に売却処分した場合,その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると,その物の価格が売却後に下落したり,無価値になったときには,受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが,これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また,逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには,受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが,これも公平の見地に照らして相当ではなく,受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。そうすると,受益者は,法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.29
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。