2024年 国家総合職 問題26
民法債務不履行・責任財産の保全
【No. 26】債権者代位権に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
債権者代位権は、債務者が自分の権利を行使しないために財産が減っていくとき、債権者が債務者に代わってその権利を行使し、債務者の財産(責任財産)を守る制度です。
他人である債務者の財産の管理に、債権者が入り込む制度なので、債務者の財産を守るのに必要な範囲に限られます。また、債権者は債務者の権利を代わりに行使するだけなので、債務者以上の権利を得るわけではなく、債務者から権利を取り上げるわけでもありません。
1.正答
債権者が債権者代位権に基づいて債務者の被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、なお、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。
要点代位行使の後も、債務者は被代位権利を自ら取り立て、処分できる。
妥当である。債権者が被代位権利を行使しても、債務者は、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられません(民法423条の5)。相手方も、債務者に履行できます。
債権者代位権は、債務者が自分で権利を行使しないときに限って認められるものです。代位行使があったからといって、債務者から権利を処分する力まで奪うのは行き過ぎだとされています。
【民法 第423条の5】
(債務者の取立てその他の処分の権限等)
第四百二十三条の五 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
2.誤答
債権者が債権者代位権に基づいて債務者の被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分な給付であったとしても、代位債権者は、総債権者の利益のために被代位権利を行使するのであるから、自己の有する被保全債権の額に限定せず、被代位権利の全てを行使することができる。
要点被代位権利の目的が可分なら、自己の債権の額の限度でのみ行使できる。
妥当でない。被代位権利の目的が可分(金銭の支払のように分けられるもの)であるときは、債権者は、自己の債権の額の限度においてのみ行使できます(民法423条の2)。被代位権利の全てを行使できるのではありません。
判例は、債権者代位権は債権者の債権を保全するための制度なので、行使できるのはその保全に必要な限度までだとしています(最判昭44.6.24)。他人である債務者の財産の管理に入り込む以上、自分の債権を守るのに必要な分を超えて行使させる理由はない、という考え方です。
【最判昭44.6.24 判決理由】
…債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきものであつて、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである。
【民法 第423条の2】
(代位行使の範囲)
第四百二十三条の二 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
3.誤答
賃貸借契約の目的となっている不動産を第三者が不法に占拠した場合において、当該不法占拠者に対して立ち退きを求めることができるのは当該不動産を所有する賃貸人であり、賃借人はその賃貸人の有する物権的請求権を代位行使することができない。
要点賃借人は、賃借権を保全するため、賃貸人の明渡請求権を代位行使できる。
妥当でない。判例は、建物の賃借人は、賃借権を保全するため、賃貸人である所有者に代位して、不法占拠者に明渡しを請求できるとしています(最判昭29.9.24)。
賃借人は、賃貸人に対し、目的物を使わせるよう求める債権を持っています。不法占拠者がいるとこの債権を実現できないので、債務者の財産全体を守るためではなく、この特定の債権を守るために債権者代位権を使うことが認められています(転用)。
なお、対抗要件(登記など)を備えた不動産の賃借人は、自分の権利として、不動産を占有している第三者に返還を請求することもできます(民法605条の4)。
【最判昭29.9.24 判決理由】
建物の賃借人が、その賃借権を保全するため賃貸人たる建物所有者に代位して建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合においては、直接自己に対してその明渡をなすべきことを請求することができるものと解するのを相当とする…
【民法 第605条の4】
(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第六百五条の四 不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
4.誤答
債権者が債権者代位権に基づいて債務者の被代位権利の相手方に対して同権利を行使する訴えを提起した場合、債権者が債務者に対し訴訟告知をする法的な義務はなく、その訴訟の判決の効力も、勝訴・敗訴を問わず訴訟当事者ではない債務者には及ばない。
要点代位訴訟を提起した債権者は債務者に訴訟告知を要し、判決は債務者にも及ぶ。
妥当でない。被代位権利の行使に係る訴えを提起した債権者は、遅滞なく、債務者に訴訟告知をしなければなりません(民法423条の6)。訴訟告知とは、訴訟が起きたことを利害関係のある人に知らせる裁判上の手続です。
また、代位債権者は、他人(債務者)のために原告となった者に当たるので、確定判決の効力は、勝訴でも敗訴でも債務者に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。
判決の効力が債務者に及ぶのに、知らないうちに訴訟が進むと、債務者は自分の権利について争う機会を持てません。そこで、訴訟告知をさせて、債務者が訴訟に加われるようにしています。
【民法 第423条の6】
(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)
第四百二十三条の六 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
【民事訴訟法 第115条第1項第2号】
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
5.誤答
債権者が債権者代位権に基づいて債務者の被代位権利を行使する場合において、同権利が動産の引渡しを目的とするものであるときは、債権者代位権が総債権者の利益のための制度であることから、相手方はその動産を債務者に引き渡さなければならず、債権者が当該相手方に対しその動産の引渡しを自己に対してするよう求めることはできない。
要点動産の引渡しを目的とする被代位権利では、自己への引渡しを求められる。
妥当でない。被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするときは、債権者は、相手方に対し、自己に引き渡すよう求めることができます(民法423条の3前段)。相手方が債権者に引き渡せば、被代位権利は消滅します(同条後段)。
通説では、債務者が受け取ろうとしないと、財産が債務者のもとに戻らず、代位行使の目的を果たせないためと解されています。
【民法 第423条の3】
(債権者への支払又は引渡し)
第四百二十三条の三 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.26
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
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