2024年 国家総合職 問題25
民法債務不履行・責任財産の保全
【No. 25】債務不履行に関する責任等に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
1.誤答
営業用店舗の賃借人が、賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には、これにより生じた営業利益喪失による損害の賠償を請求することができる。この場合において、賃借人は、同種の営業を別の場所で再開するなど当該損害を回避又は減少させる措置をとらなかったとしても、そのような措置をとることができたと解される時期以降に生じた当該損害の全てについて、その賠償を請求することができる。
要点損害を回避できたと解される時期以降の営業利益の損害の全ては、請求できない。
妥当でない。前半はそのとおりですが、判例は、賃借人が、別の場所で営業を再開するなど、損害を回避又は減少させる措置をとることができたと解される時期以降の損害の全てについては、賠償を請求できないとしました(最判平21.1.19)。
判例は、措置をとらずに損害が膨らむにまかせて、その全ての賠償を求めることは条理上認められないので、その時期以降の損害の全てが、民法416条1項の「通常生ずべき損害」に当たるとはいえないとしています。
【最判平21.1.19 判決理由】
そうすると,遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。
【民法 第416条第1項】
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.誤答
不動産の売買契約において、売主の所有権移転債務が履行不能となり買主から債務不履行に基づく損害賠償請求がなされた場合、履行不能時に目的物の価格が騰貴しつつあるという特別事情があったとしても、損害賠償額は常に履行不能時の時価を基準に算定される。
要点価格の騰貴を予見できたなら、騰貴した現在の価格で賠償を請求できる。
妥当でない。判例は、不動産の価格が履行不能の後も騰貴を続けているという特別の事情があり、売主が履行不能の際にその事情を知り、又は知り得たときは、買主は、騰貴した現在の価格を基準とした損害の賠償を請求できるとしました(最判昭47.4.20)。
特別の事情による損害も、その事情を予見すべきであったときは、賠償の範囲に入ります(民法416条2項)。債務不履行がなければ、買主は騰貴した不動産を持っていられたはずだからです。
判決当時の416条2項の「予見し、又は予見することができた」は、令和2年4月施行の改正で「予見すべきであった」に改められました。
【最判昭47.4.20 判決理由】
そこで、考えるに、およそ、債務者が債務の目的物を不法に処分したために債務が履行不能となつた後、その目的物の価格が騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を知つていたかまたはこれを知りえた場合には、債権者は、債務者に対し、その目的物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものであることは、すでに当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第一三五号同三七年一一月一六日第二小法廷判決・民集一六巻一一号二二八〇頁参照。)。そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。けだし、このような場合であつても、右不動産の買主は、右のような債務不履行がなければ、騰貴した価格のあるその不動産を現に保有しえたはずであるから、右履行不能の結果右買主の受ける損害額は、その不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定するのが相当であるからである。
【民法 第416条第2項】
(損害賠償の範囲)
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
3.誤答
債務不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関し、債権者に過失があった場合でも、裁判所は、債務不履行があった以上、債務者の責任を否定することはできない。
要点債権者に過失があれば、裁判所は債務者の責任を否定することもできる。
妥当でない。債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めます(民法418条。過失相殺)。条文が責任も定めるとしているので、債権者の過失の程度によっては、債務者の責任を否定することもできます。
損害が債権者自身の落ち度で生じ、又は広がった分まで債務者に負わせるのは、公平ではないからです。これに対し、不法行為の過失相殺は、損害賠償の額を定めることが「できる」とされ、責任そのものは否定できないと解されています(722条2項)。
【民法 第418条】
(過失相殺)
第四百十八条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
【民法 第722条第2項】
(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
4.正答
返還時期の定めのない消費貸借契約において、貸主が相当の期間を定めずに返還の催告をした場合、借主の返還債務は、その催告の時から返還の準備をするのに相当の期間が経過した時に履行遅滞に陥る。
要点相当の期間を定めない催告でも、相当期間の経過後に遅滞となる。
妥当である。期限の定めのない債務は、ふつうは履行の請求を受けた時から遅滞になりますが(民法412条3項)、返還の時期を定めなかった消費貸借では、貸主は、相当の期間を定めて返還を催告できます(591条1項)。判例は、相当の期間を定めずに催告した場合でも、催告の時から相当の期間を経過した時に遅滞になるとしています(大判昭5.1.29)。
通説では、591条1項は、借りた物を消費している借主に、返す準備の期間を与える趣旨だと解されています。相当の期間が経過してから遅滞になるとすれば、その趣旨は守られます。
【民法 第591条第1項】
(返還の時期)
第五百九十一条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
【民法 第412条第3項】
(履行期と履行遅滞)
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
5.誤答
間接強制は債務者の意思に対する心理的な抑圧が強いため、特定物売買における売主の引渡債務の不履行の場合において、直接強制による履行の強制が可能なときには、間接強制による履行の強制を求めることはできない。
要点直接強制ができる債務でも、債権者の申立てがあれば間接強制ができる。
妥当でない。物の引渡しの債務のように直接強制ができる債務も、債権者の申立てがあるときは、間接強制の方法で強制執行ができます(民事執行法173条1項)。間接強制とは、履行しない債務者に、一定の額の金銭の支払を命じて、履行を促す方法です。民法も、履行の強制の方法として、直接強制・代替執行・間接強制を並べています(民法414条1項)。
民事執行法は、直接強制ができる場合も、どの方法を申し立てるかを債権者の選択に任せ、順序にも制約を設けていません。
【民事執行法 第173条第1項】
第百七十三条 第百六十八条第一項、第百六十九条第一項、第百七十条第一項及び第百七十一条第一項に規定する強制執行は、それぞれ第百六十八条から第百七十一条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第一項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第二項から第五項までの規定を準用する。
【民法 第414条第1項】
(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.25
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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