2024年 国家総合職 問題22
民法物権変動
【No. 22】即時取得に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
即時取得は、動産を持っている人(占有者)を権利者だと信じて取引した人を守り、動産の取引を安心して行えるようにする制度です(民法192条)。その代わり、本来の所有者は、知らないうちに権利を失います。そこで、守られる場面は、次のように絞られています。
占有の取得:外から見て、それまでの占有の状態が変わる形で占有を得たこと
対象:占有のほかに、権利を示す仕組み(登録など)がない動産であること
取引:相手が持っている物を、その人の物だと信じて、取引によって取得したこと
また、盗まれた物や落とした物は、本来の所有者が自分の意思で手放したのではないので、一定の期間は取り戻す道が残されています。
【民法 第192条】
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
ア.誤答
Aの所有する土木機械をBが盗み、その後、当該土木機械が盗品であることについて善意無過失のCが中古土木機械の販売業を営むDから当該土木機械を購入したが、盗難から1年半後にCはAから当該土木機械の返還請求を受けた。この場合において、Cは、Aから代価の弁償を受けるまでは当該土木機械の引渡しを拒否することができるが、当該土木機械を使用収益することはできない。
要点代価の弁償まで引渡しを拒める占有者は、それまで使用収益できる。
妥当でない。盗品を、同じ種類の物を売る商人から善意で買い受けた占有者に対し、被害者は、盗難から2年間は回復を請求できますが、支払われた代価を弁償しなければ取り戻せません(民法193条、194条)。判例は、このように引渡しを拒める占有者は、代価の弁償の提供があるまで、その物を使用収益する権限を有するとしました(最判平12.6.27)。
被害者は、弁償して取り戻すか、あきらめるかを選べます。判例は、取り戻されたときに占有者がそれまでの使用の利益まで失うのでは、地位が不安定になり、両者の均衡を図った194条の趣旨に反するとしています。
【最判平12.6.27 判決理由】
盗品又は遺失物(以下「盗品等」という。)の被害者又は遺失主(以下「被害者等」という。)が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が民法一九四条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である。けだし、民法一九四条は、盗品等を競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人から買い受けた占有者が同法一九二条所定の要件を備えるときは、被害者等は占有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復することができないとすることによって、占有者と被害者等との保護の均衡を図った規定であるところ、被害者等の回復請求に対し占有者が民法一九四条に基づき盗品等の引渡しを拒む場合には、被害者等は、代価を弁償して盗品等を回復するか、盗品等の回復をあきらめるかを選択することができるのに対し、占有者は、被害者等が盗品等の回復をあきらめた場合には盗品等の所有者として占有取得後の使用利益を享受し得ると解されるのに、被害者等が代価の弁償を選択した場合には代価弁償以前の使用利益を喪失するというのでは、占有者の地位が不安定になること甚だしく、両者の保護の均衡を図った同条の趣旨に反する結果となるからである。
【民法 第193条】
(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
【民法 第194条】
第百九十四条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
イ.正答
Aは、BがCから預かっていた発電機を、Bが所有者であると過失なく信じて購入したが、持ち帰ることができなかったため、Bに一時的に保管を依頼し、Bは以後Aのために当該発電機を占有する意思を表明した。この場合において、善意無過失の判断基準時を占有取得時とする見解によれば、Aが、当該発電機の現実の引渡しを受ける前に、Bがその所有者でないことを知ったときは、その後にBから当該発電機の現実の引渡しを受けたとしても、Aが即時取得により当該発電機の所有権を取得することはできない。
要点占有改定では即時取得せず、現実の引渡しの時に悪意なら取得できない。
妥当である。判例は、占有の取得が、外から見た占有の状態に変化を生じない占有改定にとどまるときは、即時取得は認められないとしました(最判昭35.2.11)。占有改定とは、譲り渡した人が、以後は譲り受けた人のために占有すると表示するだけの引渡しです(民法183条)。そのため、Aの占有の取得は現実の引渡しの時で、その時にBが所有者でないと知っていたAは、即時取得できません。
占有改定では、物は譲り渡した人の手元に残り、外から見た状態が変わりません。本来の所有者に権利を失わせる以上、外から見て状態が変わる占有の取得が求められます。
【最判昭35.2.11 裁判要旨】
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。
【民法 第183条】
(占有改定)
第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
ウ.正答
Aは、道路運送車両法による登録を抹消された自動車をBから預かっていた。Aは、Cから金銭の貸付けを受ける際、当該自動車をCに質入れし、Cは、Aが当該自動車の所有者であると過失なく信じて、現実の引渡しを受けた。この場合、Cは即時取得により当該自動車の質権を取得する。
要点登録を抹消された自動車には即時取得が適用され、質権も即時取得できる。
妥当である。判例は、登録を受けていない自動車は、一般の動産として即時取得の規定の適用を受け、登録を受けた自動車が抹消登録を受けた場合も同じだとしました(最判昭45.12.4)。即時取得で取得できる権利には、質権も含まれます。質権の設定は引渡しで効力を生じ(民法344条)、Cは現実の引渡しを受けているので、質権を即時取得します。
判例は、登録を受けていない自動車は、登録を対抗要件とするものではないので、ほかの動産と同じく扱うとしました。登録という目印がなければ、占有が権利の目印になります。
【最判昭45.12.4 判決理由】
道路運送車両法による登録を受けていない自動車は、同法五条一項および自動車抵当法五条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により所有権の得喪ならびに抵当権の得喪および変更につき登録を対抗要件とするものではなく、また同法二〇条により質権の設定を禁じられるものではないのであるから、取引保護の要請により、一般の動産として民法一九二条の規定の適用を受けるべきものと解するのを相当とする。そして、この理は、道路運送車両法により登録を受けた自動車が、同法一六条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により抹消登録を受けた場合においても同様である。
【民法 第344条】
(質権の設定)
第三百四十四条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
エ.誤答
Aは、Bから代理権を授与された事実はないのに、Bの代理人と偽ってB所有のデジタルカメラをCに売却した。Cは、Aに代理権があると過失なく信じて、Aから当該デジタルカメラの現実の引渡しを受けた。この場合、Cは即時取得により当該デジタルカメラの所有権を取得する。
要点無権代理人から買い受けた者は、即時取得では保護されない。
妥当でない。即時取得が補うのは、取引の相手が無権利であることです。Cは、Aを所有者だと信じたのではなく、所有者Bの代理人だと信じて買っており、問題は代理権がないことにあるので、即時取得は成立しません。代理権があると信じた相手方が守られるかは、表見代理の規定で判断されます。
通説では、即時取得は、占有者を権利者だと信じた人を守る制度なので、代理権がないことのような、取引そのものの欠陥までは補わないと解されています。これを補うと、表見代理の要件を満たさない場合にも本人が責任を負うことになるからです。
オ.誤答
Aは、Bから腕時計を預かって保管していた。その後、Aが死亡し、Aの唯一の相続人Cは、Aが当該腕時計の所有者であると過失なく信じて、現実に当該腕時計の占有を始めた。この場合、Cは即時取得により当該腕時計の所有権を取得する。
要点相続は取引行為ではないので、相続人は即時取得しない。
妥当でない。即時取得は、取引行為によって動産の占有を始めた場合にだけ成立します(民法192条)。相続は取引行為ではないので、Cが腕時計をAの物だと過失なく信じて占有を始めても、即時取得は成立しません。
即時取得が守るのは、相手を権利者だと信じて取引した人の信頼です。相続人は、亡くなった人の権利義務をそのまま引き継ぐので(896条)、亡くなった人が持っていなかった所有権を取得する理由がありません。
【民法 第896条】
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.22
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
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