2024年 国家総合職 問題20
民法通則・人・法人
【No. 20】権利能力・行為能力に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。 (参考) 民法 (制限行為能力者の詐術) 第21条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
権利能力と行為能力は、別のものです。
権利能力:権利や義務の主体になれる資格。人は生まれた時から持つ。胎児は原則として持たないが、例外がある
行為能力:自分だけで確定的に有効な法律行為をする能力。未成年者や被保佐人など(制限行為能力者)は、これが制限される
制限行為能力者の制度は、判断能力が十分でない人を不利な取引から守る制度なので、取り消すかどうかは本人の側が決めます。ただし、相手方をだまして行為能力者だと信じさせた場合や、保護が要らなくなった後に自分から契約を実行した場合など、本人を守る理由がなくなれば、取り消せなくなります。
令和8年6月公布の改正(令和10年12月までに施行予定)で、後見と保佐はなくなり、補助に一本化されます。
ア.誤答
未成年者Aは、法定代理人Bの同意を得ずに、自己が未成年であることを黙秘して、Cから100万円を借り受けた。この場合において、Aの他の言動などと相まって、Cが、Aは未成年者ではないとの誤信を強めたとしても、Aが詐術を用いたとされる余地はなく、Aは100万円の借受けを取り消すことができる。
要点黙秘も、他の言動と相まって誤信を強めたときは、詐術に当たる。
妥当でない。判例は、制限行為能力者であることを黙秘していただけでは詐術に当たらないものの、黙秘が他の言動などと相まって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたときは、詐術に当たるとしました(最判昭44.2.13)。詐術に当たれば、Aは借受けを取り消せません(民法21条)。
21条は、行為能力者だと信じさせようとして相手方をだました本人より、信じた相手方を守る規定です。そのため判例は、詐術を積極的な術策に限っていません。
判決の「無能力者」はいまの制限行為能力者、判決当時の20条はいまの21条です。
【最判昭44.2.13 判決理由】
思うに、民法二〇条にいう「詐術ヲ用ヰタルトキ」とは、無能力者が能力者であることを誤信させるために、相手方に対し積極的術策を用いた場合にかぎるものではなく、無能力者が、ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し、または誤信を強めた場合をも包含すると解すべきである。したがつて、無能力者であることを黙秘していた場合でも、それが、無能力者の他の言動などと相俟つて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは、なお詐術に当たるというべきであるが、単に無能力者であることを黙秘していたことの一事をもつて、右にいう詐術に当たるとするのは相当ではない。
【民法 第21条】
(制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
イ.誤答
被保佐人Aは、保佐人Bに対し、自己の所有する甲土地をCに譲渡することについての同意を求めたが、Bの同意を得ることができなかった。甲土地の譲渡がAの利益を害するおそれのないものである場合、家庭裁判所は、譲受人Cの請求により、Bの同意に代わる許可を付与することができる。
要点同意に代わる許可は、被保佐人の請求によって与えられる。
妥当でない。保佐人が、被保佐人の利益を害するおそれがないのに同意をしないとき、家庭裁判所が同意に代わる許可を与えるのは、被保佐人の請求によってです(民法13条3項)。相手方である譲受人Cは、請求できません。
この許可は、本人に不利益のない行為まで保佐人が止めてしまうことを防ぎ、本人を守る仕組みです。その行為をするかは本人が決めることなので、請求も本人に限られます。
令和8年6月公布の改正(令和10年12月までに施行予定)の後も、補助人の同意に代わる許可は、本人の請求によります。
【民法 第13条第3項】
(保佐人の同意を要する行為等)
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
ウ.誤答
胎児Aの父Bは、Aが出生する2日前に、Cが起こした交通事故により死亡した。この場合、Aは、その出生後、Cに対し不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできない。
要点胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされる。
妥当でない。胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされます(民法721条)。そのため、Aは、生まれた後、Cに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求できます。
人が権利能力を持つのは生まれた時からです(3条1項)。通説では、それを貫くと、事故が出生の前か後かという偶然で、子が賠償を受けられるかが変わってしまい公平でないので、損害賠償については、生まれたものとみなす例外を置いたと解されています。
【民法 第721条】
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
【民法 第3条第1項】
第三条 私権の享有は、出生に始まる。
エ.正答
未成年者Aは、法定代理人Bの同意を得ずに、自己の所有する甲土地をCに譲渡した。この場合、AはBの同意を得なくともAC間の甲土地の譲渡を取り消すことができる。
要点制限行為能力者は、法定代理人の同意がなくても単独で取り消せる。
妥当である。未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は、取り消すことができます(民法5条1項・2項)。取り消すことができる者には、制限行為能力者本人も含まれ(120条1項)、取消しには、法定代理人の同意は要りません。
通説では、取消しは、行為をなかったことにして元の状態に戻すだけで、本人が新たに不利益を負うおそれがないので、本人が単独でしても、後から取り消すことのできない確定的な取消しになると解されています。
【民法 第120条第1項】
(取消権者)
第百二十条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
【民法 第5条第1項・第2項】
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
オ.正答
被保佐人Aは、保佐人Bの同意を得ずに、自己の所有する甲土地をCに売却する契約をCとの間で締結した。その後、Aが能力を回復し、保佐開始の審判が取り消された上で、Aは当該契約に基づいて甲土地をCに引き渡した。この場合、Aは当該契約を取り消すことができない。
要点能力を回復した後に自ら契約を履行すると、法定追認となる。
妥当である。追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について全部又は一部の履行があったときは、追認をしたものとみなされます(民法125条1号。法定追認)。Aは、保佐開始の審判が取り消された後に、自ら甲土地を引き渡したので、もう取り消せません。
通説では、追認できる立場の本人が契約を実行すれば、相手方は契約が続くと信じるので、追認と同じ効果を認めて相手方を守ると解されています。そのため、追認(124条1項)と違い、取消権があると知っている必要はないとされています(大判大12.6.11)。
【民法 第125条】
(法定追認)
第百二十五条 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
【民法 第124条第1項】
(追認の要件)
第百二十四条 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.20
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。