2024年 国家総合職 問題16
行政法国家賠償法1条
【No. 16】国家賠償法第1条に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
国家賠償法1条1項の「違法」は、公務員が、個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかで判断します(最大判平17.9.14)。公務員の行為の結果や内容が法に合わないことと、国家賠償法上の違法とは、同じではありません。
そのため判例は、立法、建築確認の審査、執行裁判所の処分、捜査など、職務の性質に応じて、どのような場合に義務違反となるか、そもそも国家賠償で争えるかを、個別に示しています。
【最大判平17.9.14 判決理由】
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。
【国家賠償法 第1条第1項】
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
ア.正答
国会議員の立法行為又は立法不作為は、その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合等には、例外的に、国家賠償法第1条第1項の適用上、違法の評価を受ける。
要点立法行為等は、権利侵害が明白な場合などに例外的に国賠法上違法となる。
妥当である。判例のとおりです(最大判平17.9.14。在外日本人選挙権訴訟)。
判例は、立法の内容が憲法に違反するかどうかと、国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるかどうかとを区別しました。違憲の立法があっても直ちに違法とはならないので、違法となるのは、本肢のような例外的な場合に限られます。
【最大判平17.9.14 判決理由】
したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
【最大判平17.9.14 裁判要旨】
5 国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。
イ.誤答
児童福祉法の規定に基づく都道府県による措置により児童養護施設に入所した児童との関係では、入所後の当該施設における養育監護は、当該施設の責任の下で行われており、都道府県のために公的な権限を行使するものとはいえないことから、当該児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は、都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解することはできない。
要点措置入所児童への施設職員の養育監護は、都道府県の公権力の行使に当たる。
妥当でない。判例は、都道府県の措置で社会福祉法人の児童養護施設に入所した児童に対する施設の職員等の養育監護行為は、都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるとしました(最判平19.1.25)。施設の職員は身分上の公務員ではありませんが、国家賠償法上は公務員に当たります。
判例は、職員の身分ではなく、入所後の養育監護が本来都道府県の行うべき事務で、施設の長はその公的な権限を委ねられて都道府県のために行使していることを重く見ました。
【最判平19.1.25 判決理由】
上記のような法の規定及び趣旨に照らせば,3号措置に基づき児童養護施設に入所した児童に対する関係では,入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であり,このような児童の養育監護に当たる児童養護施設の長は,3号措置に伴い,本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために行使するものと解される。したがって,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。
ウ.正答
建築士の設計に係る建築物の計画について建築主事のする建築確認は、建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に、建築主との関係で国家賠償法第1条第1項の適用上違法となり得る。
要点建築確認は、建築主との関係でも国賠法上違法となり得る。
妥当である。判例のとおりです(最判平25.3.26)。
判例は、建築確認の制度は建築主の利益も守るものだから、建築主事は建築主との関係でも職務上の法的義務を負うとしました。ただ、建築物の安全は第一次的には設計した建築士が確保すべきもので、建築主事はそれを前提に審査するので、違法となるのは、本肢のように注意を怠って漫然と不適合を見逃した場合などに限られます。
【最判平25.3.26 判決理由】
建築確認制度の目的には,建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを通じて得られる個別の国民の利益の保護が含まれており,建築主の利益の保護もこれに含まれているといえるのであって,建築士の設計に係る建築物の計画について確認をする建築主事は,その申請をする建築主との関係でも,違法な建築物の出現を防止すべく一定の職務上の法的義務を負うものと解するのが相当である。
【最判平25.3.26 判決理由】
…当該計画に基づき建築される建築物の安全性は,第一次的には建築士のこれらの義務に従った業務の遂行によって確保されるべきものであり,建築主事は,当該計画が建築士により上記の義務に従って設計されるものであることを前提として審査をすることが予定されているものというべきである。
エ.誤答
不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、関係人の間の実体的権利関係との不適合が生じることがあり、この不適合は、執行手続の性質上、強制執行法に定める救済の手続により是正されることが予定されているものではあるが、権利者に損害が発生した場合には、権利者が当該救済の手続による救済を求めることを怠っていたとしても、原則として国に対してその賠償を請求することができる。
要点救済手続を怠った権利者は、特別の事情がない限り国に賠償請求できない。
妥当でない。判例は、権利者が執行法上の救済の手続を求めることを怠ったために損害が生じたときは、執行裁判所が自ら処分を是正すべき場合などの特別の事情がない限り、国に賠償を請求することはできないとしました(最判昭57.2.23)。
執行裁判所は、登記簿などに表れた権利関係の外形に基づいて手続を進め、実体との食い違いは、当事者が執行法上の手続で正すことが予定されているからです。判決当時の強制執行法の手続は、いまは民事執行法に定められています。
【最判昭57.2.23 判決理由】
不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録にあらわれた権利関係の外形に依拠して行われるものであり、その結果関係人間の実体的権利関係との不適合が生じることがありうるが、これについては執行手続の性質上、強制執行法に定める救済の手続により是正されることが予定されているものである。したがつて、執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合は格別、そうでない場合には権利者が右の手続による救済を求めることを怠つたため損害が発生しても、その賠償を国に対して請求することはできないものと解するのが相当である。
オ.正答
逮捕状が発付されているが、被疑者が逃亡中であるため、逮捕状の執行ができず、逮捕状の更新が繰り返されているにすぎない時点において、当該被疑者の近親者が、逮捕状の請求、発付における捜査機関又は令状発付裁判官の被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとする判断の違法性を主張して、国家賠償を請求することは許されない。
要点逮捕状の更新が続く段階で、令状請求・発付の判断の違法を国賠で争えない。
妥当である。判例のとおりです(最判平5.1.25)。
判例は、被疑者が逃亡中のこの段階で、令状の請求・発付の判断が違法かを裁判所で審理すると、目的と性質から密行性(秘密のうちに進めること)が求められる捜査に、重大な支障が出ることを重く見ました。
【最判平5.1.25 判決理由】
逮捕状は発付されたが、被疑者が逃亡中のため、逮捕状の執行ができず、逮捕状の更新が繰り返されているにすぎない時点で、被疑者の近親者が、被疑者のアリバイの存在を理由に、逮捕状の請求、発付における捜査機関又は令状発付裁判官の被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとする判断の違法性を主張して、国家賠償を請求することは許されないものと解するのが相当である。けだし、右の時点において前記の各判断の違法性の有無の審理を裁判所に求めることができるものとすれば、その目的及び性質に照らし密行性が要求される捜査の遂行に重大な支障を来す結果となるのであつて、これは現行法制度の予定するところではないといわなければならないからである。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.16
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
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