2024年 国家総合職 問題13
行政法取消訴訟の要件
【No. 13】処分性に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
抗告訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)かどうかは、下の判例の定式で判断します(最判昭39.10.29)。要点は、公権力の行使であることと、国民の権利義務への直接の法的効果があることです。
この定式から、対等な立場で結ぶ契約、行政の内部の行為、一般的・抽象的なルールの定めは、ふつう処分になりません。ただ判例は、形の上では当てはまりにくい行為でも、その行為で国民の法的地位が直接変わるか、後の段階で争ったのでは実効的な権利救済にならないかを重く見て、処分と認めることがあります。
【最判昭39.10.29 判決理由】
…行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、当裁判所の判例とするところである…
【行政事件訴訟法 第3条第2項】
(抗告訴訟)
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
ア.正答
知事による建築許可に際し、消防法の規定に基づき消防長によりなされた当該建築許可の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であって、これにより国民との直接の関係においてその権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為とは認められないことから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。
要点消防長の建築許可の同意は、行政機関相互間の行為で、処分に当たらない。
妥当である。判例は、本肢のとおり、知事の建築許可についての消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為で、国民との直接の関係で権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではないので、処分に当たらないとしました(最判昭34.1.29)。
同意は知事の処分の前の行政内部の手続で、国民に効果を生じるのは知事の処分です。同意の拒絶の違法は、知事の不許可処分を争う訴訟の中で主張できます。判決は行政事件訴訟特例法の下のものですが、いまも考え方は同じです。
【最判昭34.1.29 判決理由】
従つて、かかる抗告訴訟の対象となるべき行政庁の行為は、対国民との直接の関係において、その権利義務に関係あるものたることを必要とし、行政機関相互間における行為は、その行為が、国民に対する直接の関係において、その権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものでない限りは、抗告訴訟の対象とならない(昭和二五年(オ)第三二九号、同二七年一月二五日第二小法廷判決、民集六巻一号三三頁、同二五年(オ)第一六〇号、同二七年三月六日第一小法廷判決、民集六巻三号三一三頁参照)。そして、このことは、行政事件訴訟特例法により行政庁の行為の無効確認を求める場合においても同様である。しかるに本件消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であつて、これにより対国民との直接の関係においてその権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為とは認められないから、前記法律の適用については、これを訴訟の対象となる行政処分ということはできない。
イ.誤答
通達は、上級行政機関が関係下級行政機関及び職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものではあるが、通達の内容が、国民の権利義務に重大な関わりを持つような場合も少なくなく、一般に抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
要点通達は行政組織内部の命令にすぎず、原則として処分に当たらない。
妥当でない。判例は、通達は原則として法規の性質を持たず、上級行政機関が下級行政機関と職員に対して発する行政組織内部の命令にすぎないので、内容が国民の権利義務に重大なかかわりを持つものでも、国民は直接拘束されないとし、通達の取消しの訴えは許されないとしました(最判昭43.12.24)。
通達に拘束されるのは行政機関だけで、裁判所も通達の解釈に従う必要がないので、通達は国民の権利義務を直接動かしません。
【最判昭43.12.24 判決理由】
元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。
ウ.正答
国税通則法に基づき還付金等を同一納税者の納付すべき国税に充当する行為については、その機能の面では民法に規定される相殺と異なるところはないが、国税通則法は、国税に関する相殺を原則として禁止する一方で、一定の場合に限って、国税局長等は充当をしなければならないとし、国税局長等のみに充当をするのに適する状態の有無、充当の順序等を判断して一方的に充当をすることを義務付けているなど、このような法規の定めやその趣旨等からすると、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
要点国税通則法による還付金等の充当は、抗告訴訟の対象となる処分に当たる。
妥当である。判例は、本肢のとおり、国税通則法による還付金等の充当は、国税局長等が行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為で、国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすので、処分に当たるとしました(最判平6.4.19)。
充当の働きは民法の相殺と同じですが、法律は、納税事務の混乱を防ぐため国税についての相殺を原則として禁じ、充当するかどうかの判断を国税局長等だけに委ねています。相手方の意思と関係なく決まる点で、対等な当事者の間の相殺とは違うと判例は見ました。
【最判平6.4.19 判決理由】
すなわち、右のような観点から、国税局長等のみに充当をするのに適する状態の有無、充当の順序等を判断して一方的に充当をすることを義務付けているのであり、充当をしたときは、同条三項により、その旨を相手方に通知しなければならないとしているのである。以上のような法規の定めやその趣旨等からすると、充当は、国税局長等が、行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成四年(行ツ)第一八三号同五年一〇月八日第二小法廷判決・裁判集民事一七〇号登載予定参照)。
エ.誤答
市の設置する特定の保育所の廃止のみを内容とする改正条例の制定行為については、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育の実施期間が満了するまでの間保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるとしても、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するため、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。
要点特定の保育所を廃止する条例の制定行為は、行政処分に当たる。
妥当でない。判例は、本肢の条例の制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るとして、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとしました(最判平21.11.26)。議会の立法作用に属することだけでは、処分に当たることは否定されません。
条例はふつう一般的なルールを定める立法で、処分に当たりません。判例は、この条例が特定の保育所の廃止だけを内容とし、ほかの処分を待たずに限られた特定の者の法的地位を直接奪う点と、第三者にも効力が及ぶ取消訴訟で争わせる合理性を重く見ました。
【最判平21.11.26 判決理由】
条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
オ.誤答
労働者災害補償保険法等に基づき労働基準監督署長が行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定について、同法は、労働福祉事業(当時)として必要な事業を行うことができることを規定しているにとどまり、また、その委任を受けた同法施行規則においても、労災就学援護費の支給の実体上の要件等は規定されておらず、行政庁が公権力の行使として一方的に決定し、取消訴訟によらなければその判断を覆すことができないとの効力が法律上与えられているということはできないことから、当該決定は抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。
要点労災就学援護費の支給・不支給の決定は、行政処分に当たる。
妥当でない。判例は、労働基準監督署長が行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとしました(最判平15.9.4)。支給の要件が法律や施行規則に定められていなくても、結論は変わりません。
労災就学援護費は、法律に基づく事業として、保険給付と同様の手続で支給される仕組みです。被災労働者や遺族は、署長の支給決定を受けて初めて具体的な支給請求権を取得するので、判例は、決定が権利を直接左右する点を重く見ました。
【最判平15.9.4 判決理由】
…被災労働者又はその遺族は,上記のとおり,所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることができるという抽象的な地位を与えられているが,具体的に支給を受けるためには,労働基準監督署長に申請し,所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず,労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.13
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
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