2024年 国家総合職 問題11
行政法実効性確保の手段
【No. 11】行政調査に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 (参考) 憲法 第35条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 〔第2項略〕
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
行政調査には、相手方の任意の協力を得て行うものと、罰則などで調査を受けることを強制するものがあります。判例は、どちらについても、調査の目的と必要性を、相手方が受ける不利益と比べて、許される限度を決めています。
任意の調査でも、相手方の権利や自由を不当に制約する方法は許されません。強制を伴う調査では、その目的が刑事責任の追及かどうかと、強制の程度が、令状などの刑事手続の保障が及ぶかを分けます。
ア.誤答
憲法第35条第1項は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下に置かれるべきことを保障した趣旨であるが、ある手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に同項による保障の枠外にあると判断することは相当でない。旧所得税法に規定する質問検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないため、憲法第35条の法意に反する。
要点旧所得税法の質問検査は、令状を要件としなくても憲法35条の法意に反しない。
妥当でない。前半は判例のとおりですが、判例は、旧所得税法の質問検査は、令状によることを一般的要件としていなくても、憲法35条の法意に反しないとしました(最大判昭47.11.22。川崎民商事件)。
判例は、この検査が所得税の公平確実な賦課徴収のための資料収集を目的とし、刑事責任の追及を目的とせず、その資料集めに直接結びつく作用も一般に持たないことを重く見ました。強制も、拒む者に罰則を科す間接的なものです。質問検査の規定は、いまは国税通則法にあります。
【最大判昭47.11.22 裁判要旨】
一 当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が、憲法三五条一項による保障の枠外にあることにはならない。
二 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、憲法三五条の法意に反するものではない。
【最大判昭47.11.22 判決理由】
…同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。 また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。
【日本国憲法 第35条第1項】
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
イ.正答
警察官職務執行法による職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則である。しかし、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合がある。
要点承諾のない所持品検査も、捜索に至らず強制にわたらなければ許される場合がある。
妥当である。判例は、職務質問(警察官職務執行法2条1項)に附随する所持品検査について本肢のとおりとし、承諾のない行為が許されるのは、必要性・緊急性・法益の権衡などを考えて相当と認められる限度に限るとしました(最判昭53.6.20。米子銀行強盗事件)。
判例は、所持品検査が、刻々と変わる事態に迅速に対応すべき行政警察の作用であることを重く見て、承諾のない検査を一律には禁じませんでした。一方で、捜索・押収を受けない権利を害しうるので、場面を限っています。
【最判昭53.6.20 判決理由】
所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。
【警察官職務執行法 第2条第1項】
(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
ウ.誤答
旧所得税法に規定する質問検査については、その範囲、程度、時期、場所等の実施の細目並びに調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知につき、憲法の定める適正手続の要請に基づき、法律上明文の規定が必要である。
要点質問検査の実施の細目や理由の告知は、法律上一律の要件ではない。
妥当でない。判例は、質問検査の範囲、程度、時期、場所など法律に特段の定めのない実施の細目は、税務職員の合理的な選択に委ねられ、調査の理由・必要性の個別的・具体的な告知も、法律上一律の要件ではないとしました(最決昭48.7.10。荒川民商事件)。
判例は、質問検査を、事案ごとの具体的な事情から客観的な必要があるときに行う職権調査の方法とみて、細目を一律に定めず、相手方の私的利益との釣り合いで限度を画しました。
いまは、調査の日時・場所・目的などの事前通知が、国税通則法で原則として義務づけられています。
【最決昭48.7.10 判決理由】
…所得税法二三四条一項の規定は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条一項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。
エ.正答
法人税法上、質問又は検査の権限は犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないが、質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに、質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならない。
要点証拠が後に犯則事件で使われうるだけでは、質問検査は違法とならない。
妥当である。判例は、法人税法の質問検査の権限は犯則事件の調査・捜査の手段として行使できないとしつつ、本肢のとおり、集めた資料が後に犯則事件の証拠に使われると想定できても、それだけで直ちにその手段として行使されたことにはならないとしました(最決平16.1.20)。
法律が禁じるのは、質問検査を犯罪捜査の手段として使うことで、問われるのは行使の目的です。課税のための調査なら、資料が後に別の手続で使われうることだけで目的は変わりません。この規定は、いまは国税通則法にあります。
【最決平16.1.20 裁判要旨】
法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記質問又は検査の権限が同法156条に反して犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならない。
オ.正答
警察官が、交通取締りの一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者等に対して必要な事項についての質問等をすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法である。
要点任意の協力で行われ自由を不当に制約しない自動車検問は適法である。
妥当である。判例は、交通違反の予防・検挙のための一斉の自動車検問について、本肢のとおり、任意の協力を求める形で、利用者の自由を不当に制約しない方法・態様で行われる限り、適法としました(最決昭55.9.22)。外観上の不審な点がない車も対象にできます。
判例は、自動車の運転者は、公道で自動車を使うことを許されている以上、合理的に必要な限度で行われる交通の取締りに協力すべきであることを重く見ています。
【最決昭55.9.22 判決理由】
しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.11
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。