2024年 国家一般職 問題29
民法不法行為
【No. 29】不法行為に関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。 (参考) 民法 (損害賠償の範囲) 第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 (不法行為による損害賠償請求権の消滅時効) 第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。 〔第二号略〕
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
1.誤答
化学工業に従事する会社が、その目的である事業によって他人に損害を与えた場合には、当該損害の発生防止のため事業の性質に従って相当な設備を施していたとしても、当該損害が生じた以上は過失が認められ、損害賠償義務を免れない。
要点相当な設備を施していた会社は、損害が生じても過失があったとはいえない。
妥当でない。大審院の判例(大阪アルカリ事件)は、化学工業の会社が、事業の性質に従って損害の予防に相当な設備を施していた場合には、他人に損害を与えても、過失があったとはいえないとしました(大判大5.12.22)。
不法行為の責任は、故意又は過失があるときに負うのが原則です(民法709条。過失責任)。損害が生じたというだけで過失を認めると、過失がなくても責任を負わせることになります。そのため、損害を避けるためにすべきことをしていたかで、過失を判断します。
【民法 第709条】
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2.誤答
訴訟上の因果関係を立証するためには、特定の事実が特定の結果発生を招いた関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することでは足りず、一点の疑義も許されない自然科学的証明を要する。
要点訴訟上の因果関係の立証は、高度の蓋然性の証明で足りる。
妥当でない。判例(ルンバール事件)は、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、特定の事実が結果を招いた関係を是認できる高度の蓋然性(相当に高い確からしさ)を証明することで足りるとしました(最判昭50.10.24)。
判例は、裁判での因果関係の判断を、自然科学の証明とは区別し、経験則に照らして全部の証拠を総合して検討するものとしています。そのため、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実だと確信できれば足ります。
【最判昭50.10.24 判決理由】
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
3.誤答
不法行為による損害賠償については、民法第416条に規定する債務不履行の場合と異なり、その生じた損害につき予見可能性は考慮されず、同条の類推適用はない。
要点不法行為の損害賠償の範囲にも、民法416条が類推適用される。
妥当でない。判例は、不法行為による損害賠償にも民法416条が類推適用され、特別の事情によって生じた損害は、加害者がその事情を予見し又は予見できたときに限って賠償の責任を負うとしました(最判昭48.6.7)。
民法の不法行為の規定には、賠償すべき損害の範囲を定めた条文がありません。そこで判例は、債務不履行の416条を借りて、通常生ずべき損害と、予見できた特別の事情による損害に、賠償の範囲を区切っています。
【最判昭48.6.7 裁判要旨】
不法行為による損害賠償についても、民法四一六条の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。
【民法 第416条】
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
4.誤答
不法行為による生命侵害があった場合、被害者の父母、配偶者及び子に限り、その財産権が侵害されなかったときでも、加害者に対し、直接に固有の慰謝料を請求することができる。
要点711条に定める者以外でも、固有の慰謝料を請求できる場合がある。
妥当でない。判例は、711条に挙げられた父母、配偶者及び子でなくても、被害者との間にこれらの者と実質的に同じといえる身分関係があり、被害者の死亡で甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、固有の慰謝料を請求できるとしました(最判昭49.12.17)。「父母、配偶者及び子に限り」とする部分が誤りです。
判例は、711条を限定的に解すべきでないとしています。近親者に固有の慰謝料を認めるのは、被害者の死で大きな精神的苦痛を受けるからなので、同じ苦痛を受ける関係にある人(事案では、長年被害者に庇護されて同居していた夫の妹)にも認めるのが釣り合います。
【最判昭49.12.17 判決理由】
不法行為による生命侵害があつた場合、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうることは、民法七一一条が明文をもつて認めるところであるが、右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しない者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが、相当である。
【民法 第711条】
(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
5.正答
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、民法第724条第1号にいう「加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれを知った時を意味する。
要点「加害者を知った時」とは、賠償請求が事実上可能な程度に知った時をいう。
妥当である。判例は、「加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度に加害者を知った時をいうとしました(最判昭48.11.16)。事案では、加害者の姓や顔は知っていても名前や住所が分からず、請求できなかった被害者について、住所氏名を確認した時が起算点とされました。
この3年の時効は、被害者が損害と加害者を知った時から進む特別の決まりです(民法724条1号)。判例は、この特則の趣旨から、被害者が実際に請求できるようになる前には、時効を進めないことにしています。
【最判昭48.11.16 判決理由】
民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知つた時を意味するものと解するのが相当であり、被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル時」にあたるものというべきである。
【民法 第724条】
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.29
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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