2024年 国家一般職 問題13
憲法人身の自由
【No. 13】人身の自由に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
憲法31条(適正手続)、35条(令状主義)、38条1項(自己に不利益な供述の強要の禁止)は、刑事手続を念頭に置いた保障です。しかし判例は、刑事責任の追及を目的としない行政手続だというだけで、これらの保障の枠外にあるとはしていません(最大判昭47.11.22、最大判平4.7.1)。
そのうえで、保障がどこまで及ぶかは、手続の性質で判断します。手続が実質上、刑事責任の追及のための資料の取得・収集に直接結び付く作用を一般的に持つか、強制の程度はどれほどか、達成しようとする公益の必要性はどうか、といった点を総合して見ます。
【日本国憲法 第31条】
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
【日本国憲法 第35条第1項】
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
【日本国憲法 第38条第1項】
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
ア.正答
憲法第35条第1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、対象となる手続が刑事責任を追及することを目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然にこの規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
要点刑事手続でないとの理由のみで、手続の強制を35条の保障の枠外とすべきでない。
妥当である。判例は、刑事責任追及を目的としない手続だという理由のみで、その手続の一切の強制が当然に憲法35条1項の保障の枠外にあるとはいえないとしました(最大判昭47.11.22)。
判例は、強制を伴う以上、刑事手続でなくても、司法権による事前の抑制という35条1項の趣旨が問題になり得ると考えました。ただし、旧所得税法の検査は、税の賦課徴収のためで刑事責任追及の資料収集に直接結び付かず、強制も罰則による間接的なものなので、令状がなくても35条に反しないとしています。
【最大判昭47.11.22 判決理由】
憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。
イ.誤答
いわゆる黙秘権を規定した憲法第38条第1項の法意は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものと解されるところ、自動車運転者に法令で義務付けられている事故の報告には、その報告すべき「事故の内容」に刑事責任を問われるおそれのある事故の原因その他の事項が含まれるから、同人に当該報告を命ずることは同項に違反する。
要点交通事故の報告義務は、黙秘権を保障した憲法38条1項に違反しない。
妥当でない。報告すべき「事故の内容」は、日時、場所、死傷者の数、負傷や物の損壊の程度など交通事故の態様に関する事項で、事故の原因など刑事責任を問われるおそれのある事項は含まれないので、報告を命じても憲法38条1項に違反しません(最大判昭37.5.2)。
判例は、報告義務が、警察が速やかに事故を知り、救護や交通秩序の回復の措置を執るための必要かつ合理的な規定であることを重く見て、報告の範囲をその処理に必要な限度に限りました。
この報告義務は、いまは道路交通法に定められています。
【最大判昭37.5.2 判決理由】
法の目的に鑑みるときは、令同条は、警察署をして、速に、交通事故の発生を知り、被害者の救護、交通秩序の回復につき適切な措置を執らしめ、以つて道路における危険とこれによる被害の増大とを防止し、交通の安全を図る等のため必要かつ合理的な規定として是認せられねばならない。しかも、同条二項掲記の「事故の内容」とは、その発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度並に物の損壊及びその程度等、交通事故の態様に関する事項を指すものと解すべきである。したがつて、右操縦者、乗務員その他の従業者は、警察官が交通事故に対する前叙の処理をなすにつき必要な限度においてのみ、右報告義務を負担するのであつて、それ以上、所論の如くに、刑事責任を問われる虞のある事故の原因その他の事項までも右報告義務ある事項中に含まれるものとは、解せられない。
ウ.誤答
憲法第31条は、直接には刑事手続についての規定であるが、行政手続についても、行政処分により制限される権利利益の内容や制限の程度にかかわらず、同条の趣旨を類推して、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えることを必要とする。
要点行政手続で告知・弁解・防御の機会を与えるかは、総合較量で決まる。
妥当でない。事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかは、制限される権利利益と、達成しようとする公益とを総合較量して決定されるべきもので、常に必要ではありません(最大判平4.7.1)。制限の内容や程度に「かかわらず」が誤りです。
判例は、行政手続が、刑事手続とは性質が自ずから違い、行政目的に応じて多種多様であることを重く見ました。そのため、一律に告知・弁解・防御の機会を求めるのではなく、手続ごとに比べて決めるとしています。
【最大判平4.7.1 判決理由】
しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
エ.誤答
憲法第38条第1項による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有する手続には等しく及ぶところ、旧所得税法に規定する質問及び検査は、所得税の公平確実な賦課徴収を目的とする手続であるとともに、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するものであるから、同項の保障が及ぶ。
要点旧所得税法の質問検査は、憲法38条1項の「強要」に当たらない。
妥当でない。38条1項の保障が、刑事責任追及の資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に持つ手続に及ぶという前半は、判例のとおりです。しかし、旧所得税法の質問・検査はその作用を一般的に持たず、「自己に不利益な供述」の「強要」に当たらないとされました(最大判昭47.11.22)。
判例は、検査の目的が税の賦課徴収で、範囲も税に関する事項に限られ、刑事責任の嫌疑を基準に決められていないことを重く見ました。脱税の発覚につながる可能性があるだけでは、直接結び付く作用を一般的に持つとはいえないとしています。
【最大判昭47.11.22 判決理由】
また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。
【最大判昭47.11.22 裁判要旨】
四 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号、一二号に規定する質問、検査は、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」の「強要」にあたらない。
オ.正答
憲法第35条の保障対象には、住居、書類及び所持品に限らずこれらに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれ、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たり、令状がなければ行うことができない。
要点GPS捜査は強制の処分に当たり、令状がなければ行うことができない。
妥当である。憲法35条の保障対象には、住居、書類及び所持品に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されない権利が含まれ、GPS捜査は、令状がなければ行うことができない強制の処分です(最大判平29.3.15)。
判例は、GPS捜査が、所在と移動を逐一把握し、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う点を重く見ました。しかも、機器を所持品にひそかに付ける点で、肉眼やカメラでの把握と違い、公権力による私的領域への侵入を伴うとしています。
【最大判平29.3.15 判決理由】
このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。
【最大判平29.3.15 裁判要旨】
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,令状がなければ行うことができない強制の処分である。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.13
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
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