2024年 国家一般職 問題12
憲法労働基本権
【No. 12】労働基本権に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
憲法28条の労働基本権は、使用者に対して経済的に弱い立場にある労働者が、団結の力で使用者と対等の立場に立てるようにするための権利です(最大判昭43.12.4)。そのため、国に対してだけでなく、使用者との関係でも意味を持ちます。
労働組合は、団結を守るために必要かつ合理的な範囲で組合員を統制できます。しかし、組合はもともと組合員の経済的地位の向上を目的とする団体なので、選挙や政治の問題のように、組合員一人ひとりが市民として自主的に決めるべき事柄では、協力を強制することはできません(最判昭50.11.28)。
【最大判昭43.12.4 判決理由】
憲法二八条は、この趣旨において、企業者対労働者、すなわち、使用者対被使用者という関係に立つ者の間において、経済上の弱者である労働者のために、団結権、団体交渉権および団体行動権(いわゆる労働基本権)を保障したものであり、…
【日本国憲法 第28条】
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
1.正答
労働基本権は、国に対して労働者の労働基本権を保障する立法その他の措置を要求する権利という社会権としての性質と、労働者の団結や争議行為を制限する立法その他の措置を国に対して禁止するという自由権としての性質を有している。また、労働基本権は、国との関係だけでなく、私人間の関係においても直接適用される。
要点労働基本権は、社会権と自由権の性質を持ち、私人間にも直接適用される。
妥当である。通説では、労働基本権は、国に対して労働者の権利を守る立法などの措置を求める社会権としての性質と、団結や争議行為を制限する立法を国に禁じる自由権としての性質を併せ持ち、使用者との関係でも私人間に直接適用されると解されています。
労働基本権は、もともと使用者に対して弱い立場にある労働者を守るための権利なので、使用者との関係で効力を持たなければ意味がありません。労働組合法が、正当な争議行為について刑事責任だけでなく損害賠償の責任も免れるとしているのも、この性質の表れです。
2.誤答
労働組合が地方議会議員選挙の際にいわゆる統一候補を決定し、組合を挙げてその選挙運動を推進している場合には、組合が、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、立候補を思いとどまるよう勧告し又は説得することはもちろん、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に同人を統制違反者として処分することも、組合の統制権の範囲内のものとして認められる。
要点立候補の取りやめを要求し、従わない組合員を処分することは許されない。
妥当でない。判例は、統一候補以外の組合員に立候補を思いとどまるよう勧告・説得することは許されるが、その域を超えて、立候補の取りやめを要求し、従わないことを理由に統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えて許されないとしました(最大判昭43.12.4。三井美唄労組事件)。
立候補の自由は、選挙人が自由に代表者を選ぶことと表裏の関係にあり、憲法が保障する重要な人権です。判例は、統制権による制約は、その必要性と立候補の自由の重要性を比べて判断すべきだとし、処分で強制するところまでは認めませんでした。
【最大判昭43.12.4 裁判要旨】
二 公職の選挙に立候補する自由は、憲法第一五条第一項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
三 労働組合が、地方議会議員の選挙にあたり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進している場合において、統一候補の選にもれた組合員が、組合の方針に反して立候補しようとするときは、これを断念するよう勧告または説得することは許されるが、その域を超えて、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして許されない。
3.誤答
いわゆる安保反対闘争のような活動は、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であるが、究極的には労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないのであるから、労働組合がその活動を実施するために臨時組合費を徴収することを多数決によって決定した場合には、組合員はこれを納付する義務を負う。
要点安保反対闘争のための臨時組合費について、組合員は納付義務を負わない。
妥当でない。判例は、安保反対闘争のような活動は、究極的には労働者の生活利益と無縁ではないとしても、直接には国の安全や外交などの政策上の問題を対象とする活動なので、その費用の臨時組合費について、組合員は納付する義務を負わないとしました(最判昭50.11.28。国労広島地本事件)。
このような政治的要求への賛否は、本来、国民の一人として各自が自主的に決めるべきことなので、組合の多数決で協力を強制できないとされました。
これに対し、その闘争で処分を受けた組合員を救援するための臨時組合費は、組合の共済活動として、納付する義務があるとされています。
【最判昭50.11.28 判決理由】
これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。
4.誤答
憲法第28条は労働者がストライキなどの争議行為を行う権利を保障しているところ、労働組合が同条によって保障される正当な争議行為を行った場合、刑事責任は免責されるが、民事上の債務不履行責任や不法行為責任は免責されない。
要点正当な争議行為は、刑事責任だけでなく、民事上の責任も免責される。
妥当でない。正当な争議行為には、刑法の正当行為の規定が適用されて刑事責任を問われないうえ(労働組合法1条2項)、使用者は、正当な争議行為で損害を受けたことを理由に、労働組合や組合員に損害賠償を請求できません(同法8条)。民事上の責任も免れます。
ストライキは、約束した労働をしないことなので、本来は債務不履行になり、業務を妨げれば罪にも当たりえます。通説では、憲法28条が団体行動権を保障している以上、正当な争議行為には刑事・民事の両面で責任を負わせないことが、その保障の内容だと解されています。
【労働組合法 第1条第2項】
(目的)
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。
【労働組合法 第8条】
(損害賠償)
第八条 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。
5.誤答
国家公務員についての人事院勧告制度は、国家公務員の労働基本権の制約が違憲とされないための重要な条件であって、その実施の凍結は極めて異例な事態といわざるを得ないから、国家公務員が凍結された人事院勧告の完全実施を求めて争議行為を行った場合、その者に対する懲戒処分は、懲戒権者の裁量権を濫用したものとして、原則として違法となる。
要点人事院勧告の不実施を契機とするストへの懲戒処分も、裁量の逸脱ではない。
妥当でない。判例は、人事院勧告の不実施をきっかけに、その完全実施などを求めて行われたストライキに指導的な役割を果たした職員らへの停職処分について、ストライキが事前の警告を無視した大規模なものだったことなどから、裁量権の範囲を逸脱したものとはいえないとしました(最判平12.3.17)。
判例は、勧告が凍結されても、争議行為の禁止の代わりとなる代償措置が本来の機能を果たしていなかったとはいえないとしました。そのため、禁止は有効で、それに違反した争議行為への懲戒処分は、事情に照らして裁量の範囲内とされました。
【最判平12.3.17 裁判要旨】
昭和五七年度の人事院勧告の不実施を契機としてその完全実施等の要求を掲げて行われたストライキに関与したことを理由としてされた農林水産省職員らに対する停職六月ないし三月の各懲戒処分は、右ストライキが当局の事前警告を無視して二度にわたり敢行された大規模なものであり、右職員らが、右ストライキを指令した労働組合の幹部としてその実施に指導的な役割を果たし、過去に停職、減給等の懲戒処分を受けた経歴があるなどの原判示の事実関係の下においては、著しく妥当性を欠き懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。(補足意見がある。)
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.12
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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