2023年 国家一般職 問題29
民法事務管理・不当利得
【No. 29】不当利得に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
不当利得は、法律上の原因なく他人の財産や労務で利益を受け、他人に損失を与えた人(受益者)に、その利益を返させる制度です(民法703条)。判例は、この制度を、正当な理由のない利得を、公平の観念に基づいて返させるものだとしています(最判昭49.9.26)。何をどこまで返すかに迷ったら、どうすれば当事者の間が公平になるかを考えます。
返す範囲は、受益者が善意なら利益の存する限度(現存利益)、悪意なら受けた利益に利息を付けた額です(703条、704条)。
【最判昭49.9.26 判決理由】
およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるものである…
【民法 第703条】
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
【民法 第704条】
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
ア.誤答
不当利得された財産に受益者の行為が加わることで得られた収益については、受益者は、悪意の場合に限り、社会通念上受益者の行為の介入がなくても損失者がその財産から当然に取得したであろうと考えられる範囲において、これを返還する義務を負う。
要点運用利益の返還義務は、受益者が善意の場合にも生じる。
妥当でない。判例は、受益者の行為が加わって得られた収益(運用利益)でも、受益者の行為がなくても損失者がその財産から当然得たであろう範囲は、受益者が善意でも返さなければならないとしました(最判昭38.12.24)。
受益者の手腕で得た利益まで返させるのは公平ではありません。しかし、損失者が自分で持っていれば当然得られたはずの利益(判例の事案では、商人である損失者がその金銭から当然得られた利息相当額)は、損失者の損失そのものなので、善意の受益者からも返させるのが公平です。
【最判昭38.12.24 裁判要旨】
二 第一項の運用利益が商事法定利率による利息相当額(臨時金利調整法所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内)であり損失者が商人であるときは、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと考えられる収益の範囲内にあるものと認められるから、受益者は、善意のときであつても、これが返還義務を免れない。
三 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が右財産から当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべきであり、その範囲の収益が現存するかぎり、民法第七〇三条により返還されるべきである。
イ.誤答
法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は、その利得した物を第三者に売却処分し、その売却後にその利得した物の価格が高騰したときは、原則として、売却代金相当額ではなく、売却後に不当利得返還請求を受けた時点における時価相当額を不当利得として返還する義務を負う。
要点利得した代替物を売却した受益者は、原則として売却代金相当額を返還する。
妥当でない。判例は、代替性のある物を利得した受益者がそれを売却した場合には、原則として、売却代金相当額の金銭を返せばよいとしました(最判平19.3.8)。
裁判で返す額を決める時点の時価で返させると、売却後に値下がりすれば受益者は手元の代金の一部を返さずに済み、値上がりすれば手元にある以上の額を返すことになります。判例は、どちらも公平でなく、受けた利益を返すという不当利得の本質にも合わないとしました。
【最判平19.3.8 判決理由】
受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し,その後これを第三者に売却処分した場合,その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると,その物の価格が売却後に下落したり,無価値になったときには,受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが,これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また,逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには,受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが,これも公平の見地に照らして相当ではなく,受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。
ウ.正答
金銭を騙取した者がその金銭で自己の債務を弁済した場合において、債権者が当該金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失があるときは、債権者は、被騙取者に対し、不当利得として当該金銭を返還する義務を負う。
要点騙取金で弁済を受けた債権者に悪意・重過失があれば、不当利得となる。
妥当である。判例は、だまし取られた金銭で弁済を受けた債権者に、受け取る際に悪意又は重大な過失がある場合には、その金銭の取得は、だまし取られた人との関係で法律上の原因がなく、不当利得になるとしました(最判昭49.9.26)。
債権者は、自分の債権の弁済として受け取ったのですから、ふつうは返す必要がありません。しかし、だまし取られたお金だと知っていた、又は少し注意すれば分かったのに受け取った債権者にまでその利益を残すのは、被害者との間で公平に反する、という判断です。
【最判昭49.9.26 裁判要旨】
二、甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となる。
エ.誤答
不法な原因に基づいて目的物を給付した者は、不当利得に基づく返還請求権を有しないが、目的物の所有権に基づく返還請求権を行使することができる。
要点不法原因給付をした者は、所有権に基づく返還請求もできない。
妥当でない。不法な原因のために給付をした者は、不当利得として返還を請求できないだけでなく、所有権に基づいて返還を請求することもできません(民法708条、最大判昭45.10.21)。
判例は、708条は、自ら反社会的な行為をした者には、その結果を元に戻すよう裁判所に求めることを許さない趣旨なので、所有権を理由にしても返還は求められないとしました。そして、返還を求められなくなった反射として、物の所有権は受け取った側に移るとしています。
【最大判昭45.10.21 判決理由】
けだし、同条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されない筋合であるというべきである。かように、贈与者において給付した物の返還を請求できなくなつたときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属するにいたつたものと解するのが、最も事柄の実質に適合し、かつ、法律関係を明確ならしめる所以と考えられるからである。
【民法 第708条】
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和5年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.29
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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