2023年 国家一般職 問題21
民法通則・人・法人
【No. 21】信義誠実の原則(信義則)及び権利濫用の禁止に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
民法は、権利の行使と義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならないとし(信義誠実の原則)、権利の濫用を許さないとしています(権利濫用の禁止)。どちらも具体的な要件を定めない一般的な決まり(一般条項)で、ほかの決まりをそのまま当てはめると不公平になる場面で、裁判所が結論を調整するために使います。
信義則:契約や交渉などで特別な関係に入った者は、相手の信頼を裏切らないように行動しなければならない
権利濫用:形式的には権利の行使でも、自分が得る利益と相手に与える損害の釣り合いや、行使の目的から見て社会的に許されないものは、権利の行使として認めない
【民法 第1条第2項・第3項】
(基本原則)
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
ア.正答
国は、国家公務員に対し、公務遂行のための施設等の設置管理又はその遂行する公務の管理に当たり、国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負うが、この安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである。
要点安全配慮義務は、特別な社会的接触の関係にある当事者間の信義則上の義務である。
妥当である。判例は、国は公務員に対し、生命や健康を危険から守るよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負い、この義務は、特別な社会的接触の関係に入った当事者の間で信義則上認められる義務だとしました(最判昭50.2.25)。
判決は、公務員が国の指揮の下で職務を誠実に果たすには、国が安全への配慮を尽くすことが欠かせないことを重く見ました。特別な関係に入った相手には、本来の義務(給与の支払など)のほかに、相手の安全を守る配慮も信義則上求められます。
【最判昭50.2.25 判決理由】
けだし、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、…
イ.誤答
マンションの購入希望者が、売却予定者と売買交渉に入り、その交渉過程で注文を出したり、不備を指摘し、これに応じた設計変更及び施工を売却予定者がすることを容認しながら、交渉開始から半年後に購入希望者の都合により契約を締結しなかった場合であっても、購入希望者は、当該契約の準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとはいえず、売却予定者が被った損害を賠償する責任を負わない。
要点設計変更を容認しながら交渉を打ち切った者は、賠償責任を負う。
妥当でない。判例は、購入希望者が設計変更とその施工を容認しながら、自らの都合で契約を結ばなかった事案で、契約の準備段階における信義則上の注意義務に違反したとして、損害を賠償する責任を負うとしました(最判昭59.9.18)。
契約が成立する前でも、交渉が進めば、相手は契約が結ばれると信じて準備や出費をします。判例は、購入希望者が相手の出費を容認しておきながら、自分の都合で交渉を打ち切ったことを重く見て、責任を認めました。
【最判昭59.9.18 裁判要旨】
マンシヨンの購入希望者において、その売却予定者と売買交渉に入り、その交渉過程で歯科医院とするためのスペースについて注文を出したり、レイアウト図を交付するなどしたうえ、電気容量の不足を指摘し、売却予定者が容量増加のための設計変更及び施工をすることを容認しながら、交渉開始六か月後に自らの都合により契約を結ぶに至らなかつたなど原判示のような事情があるときは、購入希望者は、当該契約の準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとして、売却予定者が右設計変更及び施工をしたために被つた損害を賠償する責任を負う。
ウ.誤答
AB間の契約において、Aが、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報をBに提供しなかった場合には、Aは、Bが当該契約を締結したことにより被った損害につき、当該契約上の債務の不履行による損害賠償責任を負う。
要点契約締結前の説明義務違反は、債務不履行責任でなく不法行為責任を生ずる。
妥当でない。判例は、契約の締結に先立つ信義則上の説明義務に違反した当事者は、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、契約上の債務の不履行による賠償責任は負わないとしました(最判平23.4.22)。
説明義務に違反したために相手が契約を結んだのなら、その契約は違反の結果です。結果である契約から、その原因となった説明義務が生じたと考えるのは筋が通らない、というのが判決の理由です。どちらの責任かで、時効の期間などが変わります。
【最判平23.4.22 判決理由】
…なぜなら,上記のように,一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために,相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り,損害を被った場合には,後に締結された契約は,上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって,上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは,それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ないからである。
エ.正答
Aが、B所有の甲土地の所有権を侵害したが、侵害による損失が僅少で、かつ、その侵害の除去が著しく困難で莫大な費用を要する場合において、第三者Cがそのことを知り不当な利得を図るために甲土地を購入した上でAに対して侵害の除去を迫り、又は甲土地を不相当に巨額な代金で買い取るように求めたときは、Cの請求は権利濫用に当たり許されない。
要点不当な利得を図るための侵害除去の請求は、権利の濫用として許されない。
妥当である。宇奈月温泉事件の判例は、本肢と同じ事案で、不当な利得を図って土地を買い受けた第三者が侵害の除去を迫ることなどを、権利の濫用として許さないとしました(大判昭10.10.5)。
所有権に基づいて侵害の除去を求めること自体は、形式的には権利の行使です。しかし、得られる利益に比べて相手に与える損害があまりに大きく、目的も不当な利得にあるときは、権利の行使として守るに値しません。通説では、権利の濫用かどうかは、このように当事者の利益の釣り合いや行使の目的などから判断すると解されています。
オ.誤答
Aが、自らの権利を行使したことによってBの権利を侵害した場合は、およそ社会的共同生活を営む者の間では、一人の行為が他人に不利益を及ぼすことは免れることができないから、Bは、Aの権利行使の範囲が適当であるか否かにかかわらず、Aに対して損害賠償を請求することができない。
要点権利の行使も、社会観念上認容すべき程度を超えれば不法行為となる。
妥当でない。信玄公旗掛松事件の判例は、権利の行使であっても、その行使が社会観念上、被害者が受け入れるべき程度を超えたときは、権利の適当な範囲内の行使とはいえず、不法行為となるとしました(大判大8.3.3)。「権利行使の範囲が適当であるか否かにかかわらず」とする部分が誤りです。
社会で共同生活をする以上、ある人の行為が他人に多少の不利益を及ぼすことは避けられず、その程度までは互いに受け入れるべきです。しかし、その程度を超えれば、もはや権利の行使として守られず、損害を賠償しなければなりません。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和5年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.21
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
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