2023年 国家一般職 問題20
行政法国家賠償法2条
【No. 20】国家賠償法第2条に関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
国家賠償法2条1項の責任は、営造物の設置・管理に瑕疵があったかどうかで決まります。瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、国や公共団体の過失は要りません(最判昭45.8.20)。公務員の行為についての責任とは違い、営造物という物の状態に着目した責任なので、管理する側に落ち度があったかは問わないのです。
通常有すべき安全性を欠くかどうかは、その営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況などの諸般の事情を総合して、個別に判断します(最判昭53.7.4)。
【最判昭45.8.20 判決理由】
国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。
【最判昭53.7.4 判決理由】
…国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである…
【国家賠償法 第2条第1項】
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
1.誤答
国家賠償法第2条第1項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任が認められるためには、その過失により安全性を欠いていたことが必要である。
要点営造物の設置管理の瑕疵による賠償責任には、過失は要らない。
妥当でない。営造物の設置又は管理の瑕疵に基づく国や公共団体の賠償責任には、過失は要りません(最判昭45.8.20。高知落石事件)。
国家賠償法2条1項の責任は、営造物という物の状態に着目した責任なので、営造物が通常有すべき安全性を欠いていれば、管理する側に落ち度がなくても責任を負います。
2.誤答
道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕する義務を負うが、故障車が道路上に長時間放置されていたことにより事故が発生した場合には、放置に起因して発生した損害は専ら放置者の責任であって、道路管理者は、道路を常時巡視して応急の事態に対処し得る看視体制をとらずに何ら道路の安全性を保持する措置をとっていなかったとしても、責任を負わない。
要点故障車の長時間の放置に対処しなかった道路管理者は、賠償責任を負う。
妥当でない。判例は、国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約87時間放置されていたのに、道路管理者がこれを知らず、道路の安全を保つ措置を全く講じなかった事案で、道路の管理に瑕疵があるとしました(最判昭50.7.25)。
判例は、道路管理者は道路を常に良好な状態に保つよう維持・修繕する義務を負うとしたうえで、道路を常時巡視して応急の事態に対処できる体制をとっていなかったことを重く見ました。放置したのが第三者でも、道路が安全性を欠いた状態を放っておけば、管理の瑕疵になります。
【最判昭50.7.25 裁判要旨】
幅員七・五メートルの国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約八七時間駐車したままになつていたにもかかわらず、道路管理者がこれを知らず、道路の安全保持のために必要な措置を全く講じなかつた判示の事実関係のもとにおいては、道路の管理に瑕疵があるというべきである。
3.正答
未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、河川の管理に内在する諸制約の下で一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応する過渡的な安全性をもって足り、河川管理についての瑕疵の有無は、諸制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えているかどうかを基準として判断すべきである。
要点未改修河川の安全性は、過渡的な安全性で足りる。
妥当である。判例のとおりです(最判昭59.1.26。大東水害訴訟)。
道路は初めから安全な物として造られて使われ始めますが、河川はもともと洪水などの危険を抱えた自然の物で、莫大な費用と時間をかけた治水事業で少しずつ安全にしていくほかありません。そのため判例は、道路とは判断の基準が違うとしました。
【最判昭59.1.26 判決理由】
河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、すべての河川について通常予測し、かつ、回避しうるあらゆる水害を未然に防止するに足りる治水施設を完備するには、相応の期間を必要とし、未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、右諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性をもつて足りるものとせざるをえないのであつて、当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、その管理の瑕疵の有無についての判断の基準もおのずから異なつたものとならざるをえないのである。
【最判昭59.1.26 裁判要旨】
一 河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模発生の頻度、発生原因、被害の性質降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである。
4.誤答
点字ブロック等のように、新たに開発された視力障害者用の安全設備を旧国鉄の駅のホームに設置しなかったことをもって当該駅のホームが通常有すべき安全性を欠くか否かを判断するに当たっては、全国的ないし当該地域における道路及び駅のホーム等でのその安全設備の普及の程度等の事情にかかわらず、その安全設備自体の有効性・重要性を基に判断しなければならない。
要点新たな安全設備がないことによる瑕疵は、その普及の程度などを総合して判断する。
妥当でない。判例は、点字ブロックのような新たに開発された安全設備を駅のホームに設置していないことが瑕疵に当たるかは、その安全設備が相当程度標準化されて普及しているか、事故発生の危険性の程度、設置の必要性と困難性などの諸般の事情を総合考慮して判断するとしました(最判昭61.3.25)。設備自体の有効性・重要性だけで判断するのではありません。
新しく開発された設備は、標準化されて広まるまでは、どこの駅にも備えているとは期待できません。そのため、備えていないことが直ちに「通常有すべき安全性」を欠くことにはならず、その駅での危険や設置の必要性・困難性と合わせて判断されます。
【最判昭61.3.25 裁判要旨】
点字ブロック等の新たに開発された視力障害者用の安全設備が日本国有鉄道の駅のホームに敷設されていないことが国家賠償法二条一項にいう設置又は管理の瑕疵に当たるか否かを判断するにあたつては、その安全設備が、視力障害者の転落等の事故防止に有効なものとして、その素材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国ないし当該地域における道路、駅のホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホームにおける構造又は視力障害者の利用度から予測される視力障害者の事故発生の危険性の程度、事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を総合考慮することを要する。
5.誤答
町立中学校の校庭開放中に、幼児が、テニスの審判台に昇った後、本来の用法に反して審判台の後部から降りようとしたために審判台が倒れ、その下敷きとなって死亡した場合、当該審判台が本来の用法に従う限り危険はなかったとしても、幼児が異常な行動に出て死傷事故が発生する可能性があることは通常予測し得るところであるから、当該審判台の設置管理者は国家賠償法第2条第1項所定の損害賠償責任を負う。
要点通常予測し得ない異常な使用による事故には、設置管理者は責任を負わない。
妥当でない。判例は、幼児がテニスの審判台の後部から降りようとして審判台が倒れた事故で、審判台は本来の用法に従う限り転倒の危険がなく、幼児の行動は設置管理者の通常予測し得ない異常なものだったとして、設置管理者は国家賠償法2条1項の責任を負わないとしました(最判平5.3.30)。
判例は、設置管理者が責任を負うのは、本来の用法に従って使ったときの安全までで、通常予測できない異常な使い方をしないよう注意するのは利用者の側、幼児なら第一に保護者だとしました。どんな使い方でも事故が起きないようにせよというのは、設置管理者に不可能を強いるからです。
【最判平5.3.30 判決理由】
公の営造物の設置管理者は、本件の例についていえば、審判台が本来の用法に従って安全であるべきことについて責任を負うのは当然として、その責任は原則としてこれをもって限度とすべく、本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負うのが当然であり、幼児について、異常な行動に出ることがないようにさせる注意義務は、もとより、第一次的にその保護者にあるといわなければならない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和5年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.20
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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