2023年 国家一般職 問題19
行政法取消訴訟の審理・判決
【No. 19】取消訴訟における仮の救済に関する次の記述のうち、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
取消訴訟を提起しても、処分の効力、処分の執行や手続の続行は止まりません(行政事件訴訟法25条1項。執行不停止の原則)。判決を待つ間に生じる重大な損害を防ぐための例外が執行停止で、裁判所が申立てにより決定で行います(同条2項)。
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法の仮処分はできません(44条)。そのため、取消訴訟での仮の救済は、執行停止の仕組みの中で、要件と効果が定められています。
【行政事件訴訟法 第25条第1項・第2項】
(執行停止)
第二十五条 処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
【行政事件訴訟法 第44条】
(仮処分の排除)
第四十四条 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
1.誤答
処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、執行停止をすることができる。重大な損害を避けるため緊急の必要があることについては、申立人が証明する必要があり、執行停止の決定をするには、口頭弁論を開かなければならない。
要点執行停止の要件は疎明で足り、口頭弁論を経ないで決定できる。
妥当でない。執行停止の決定は、証明ではなく疎明に基づいてします(行政事件訴訟法25条5項)。疎明とは、裁判官に一応確からしいと思わせる程度の立証です。また、決定は口頭弁論を経ないでできます。ただし、あらかじめ当事者の意見を聴かなければなりません(同条6項)。
執行停止は、判決を待っていては間に合わない損害を防ぐための、急ぎの仮の措置だからです。
【行政事件訴訟法 第25条第5項・第6項】
(執行停止)
5 第二項の決定は、疎明に基づいてする。
6 第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。
2.誤答
執行停止の内容には、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止があるが、裁判所は、処分の執行又は手続の続行の停止によって仮の救済の目的を達することができる場合であっても、申立人の権利保護のために、決定をもって処分の効力の停止をすることができる。
要点執行・続行の停止で目的を達せるときは、処分の効力の停止はできない。
妥当でない。処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、できません(行政事件訴訟法25条2項ただし書)。
処分の効力そのものを止めると、処分がされていない状態に戻り、行政への影響が最も大きくなります。そこで、執行や手続の続行を止めれば足りるときは、その限度にとどめています。
3.正答
弁護士が所属弁護士会から業務停止3月の懲戒処分を受け、審査請求を申し立てたが棄却となり、裁決取消訴訟を提起し、懲戒処分の執行停止の申立てを行った場合、当該弁護士が当該業務停止期間中に期日が指定されているものだけで30件を超える訴訟案件を受任していたなどの事実があるときは、当該処分によって当該弁護士に生ずる社会的信用の低下、業務上の信頼関係の毀損等の損害は、執行停止の要件である「重大な損害」に当たるとするのが判例である。
要点弁護士の業務停止による社会的信用の低下などは、「重大な損害」に当たる。
妥当である。判例は、業務停止3月の懲戒処分による弁護士の社会的信用の低下、業務上の信頼関係の毀損等の損害は、「重大な損害」に当たるとしました(最決平19.12.18)。
執行停止の要件は、平成16年の改正(平成17年4月施行)で「回復の困難な損害」から「重大な損害」に改められ、損害の性質だけでなく、程度や処分の内容・性質も考えて判断することになりました(25条3項)。金銭で償えないとまではいえない損害でも、程度が重ければ当たります。
【最決平19.12.18 裁判要旨】
弁護士が業務停止3月の懲戒処分を受けた場合において,当該弁護士が当該業務停止期間中に期日が指定されているものだけで31件の訴訟案件を受任していたなどの事実関係の下では,上記処分によって当該弁護士に生ずる社会的信用の低下,業務上の信頼関係の毀損等の損害は,行政事件訴訟法25条2項にいう「重大な損害」に当たる。(補足意見がある。)
【行政事件訴訟法 第25条第3項】
(執行停止)
3 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
4.誤答
執行停止の申立てがあった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができるが、執行停止の決定があった後においては異議を述べることができない。また、内閣総理大臣は、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。
要点内閣総理大臣の異議は、執行停止の決定の後でも述べることができる。
妥当でない。内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合に異議を述べることができ、執行停止の決定があった後においても、同様です(行政事件訴訟法27条1項)。異議を述べたときに次の常会で国会に報告する点は、そのとおりです(同条6項)。
異議は、処分を続けなければ公共の福祉に重大な影響が出るおそれがある事情を示して(同条3項)、内閣の責任で執行停止を止める制度で、異議があれば、裁判所はすでにした決定も取り消さなければなりません(同条4項)。強い効果を持つので、やむをえない場合に限り、国会に報告させています。
【行政事件訴訟法 第27条第1項・第3項・第4項・第6項】
(内閣総理大臣の異議)
第二十七条 第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があつた後においても、同様とする。
3 前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。
4 第一項の異議があつたときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。
6 内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。
5.誤答
執行停止の決定又はこれを取り消す決定は、取消判決とは異なり、第三者に対しては効力を有しない。また、執行停止の決定は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束するものではない。
要点執行停止の決定にも、第三者効と関係行政庁への拘束力がある。
妥当でない。取消判決の第三者効の規定は、執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用され(行政事件訴訟法32条2項)、拘束力の規定も、執行停止の決定に準用されます(33条4項)。執行停止の決定は、第三者にも効力を持ち、関係行政庁を拘束します。
執行停止は、判決までの間、処分の効力などを止めた状態を保つ措置です。第三者との関係で効力が分かれたり、行政庁が同じ処分をし直したりできるなら、止めた状態を保てないからです。
【行政事件訴訟法 第32条】
(取消判決等の効力)
第三十二条 処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。
2 前項の規定は、執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用する。
【行政事件訴訟法 第33条第1項・第4項】
第三十三条 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
4 第一項の規定は、執行停止の決定に準用する。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和5年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.19
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
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