2026年 国家総合職 問題31
民法相続
【No. 31】遺産分割に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。 (参考) 民法 (催告による解除) 第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
遺産分割は、相続によって共同相続人の共有となった財産を、各相続人の単独所有などに分けて、帰属を確定させる手続です。分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(民法909条)。
判例は、遺産分割を、相続人の財産の帰属を新たに決める、財産権を目的とする行為として扱っています。そのため、債権者や第三者との関係では、遡及効があっても、分割によって新たに権利が移転したのと同じように考える場面が多くあります。
【民法 第909条】
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
ア.誤答
遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであるが、その性質上、相続に伴う行為であることから、詐害行為取消権行使の対象となり得ない。
要点遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。
妥当でない。判例は、共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となるとしました(最判平11.6.11)。
詐害行為取消権は、財産権を目的としない行為には及びません(民法424条2項)。判例は、遺産分割協議は、共同相続人の共有となった財産の帰属を確定させるもので、その性質上、財産権を目的とする法律行為であると考えました。
【最判平11.6.11 裁判要旨】
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。
【民法 第424条第2項】
(詐害行為取消請求)
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
イ.誤答
相続の開始後に認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、価額のみによる支払の請求を行うことができるが、その際に、支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額から消極財産の価額を控除した価額である。
要点価額の算定の基礎となる遺産の価額は、積極財産の価額である。
妥当でない。判例は、相続の開始後認知によって相続人となった者が、遺産の価額の支払を請求する場合(民法910条)、その算定の基礎となる遺産の価額は、分割の対象とされた積極財産の価額であり、消極財産の価額を控除しないとしました(最判令元.8.27)。
判例は、支払う価額は分割の対象とされた遺産の価額を基礎にするのが公平だとしました。分割の対象は積極財産だけで、相続債務は、認知された者を含む各相続人が当然に承継し、分割の対象にならないからです。
【最判令元.8.27 判決理由】
そうすると,同条に基づき支払われるべき価額は,当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが,当事者間の衡平の観点から相当である。そして,遺産の分割は,遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって,消極財産である相続債務は,認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され,遺産の分割の対象とならないものである。
【最判令元.8.27 裁判要旨】
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額である。
【民法 第910条】
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
ウ.正答
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は、遺産分割協議を民法第541条本文に基づき解除することは認められない。
要点遺産分割協議で負担した債務の不履行を理由に、541条で協議を解除できない。
妥当である。判例は、共同相続人間で遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が協議で負担した債務を履行しないときでも、その債権を持つ相続人は、民法541条によって協議を解除することはできないとしました(最判平元.2.9)。
判例は、遺産分割は協議の成立とともに終了し、その後は債権債務関係が残るだけだと考えました。解除を認めると、遡及効を持つ遺産分割をやり直すことになり、法的安定性が著しく害されるからです。
【最判平元.2.9 判決理由】
けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。
【最判平元.2.9 裁判要旨】
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法五四一条によつて右協議を解除することができない。
【民法 第541条】
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
エ.正答
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、当該遺産を当該相続人に単独で相続させる遺産の分割の方法が指定されたものと解すべきである。
要点「相続させる」旨の遺言は、原則として遺産分割の方法の指定と解すべきである。
妥当である。判例は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から遺贈であることが明らかであるか、遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、遺産分割の方法を指定したものと解すべきだとしました(最判平3.4.19)。
判例は、遺言者は、その相続人に単独で相続させようとする意思を持っているのが通常で、「相続させる」という言葉を使った遺言者の意思を合理的に解釈すると、遺産分割の方法の指定と考えるのが自然だとしました。
【最判平3.4.19 裁判要旨】
一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
オ.誤答
遺産の分割は、相続開始の時に遡って効力を生じるとされているところ、相続財産である不動産につき、遺産分割により法定相続分を超える権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なくても、遺産分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分を超える自己の権利の取得を対抗することができる。
要点法定相続分を超える権利の取得は、登記なしに第三者に対抗できない。
妥当でない。判例は、遺産分割により不動産の権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に権利を取得した第三者に対し、法定相続分を超える権利の取得を対抗できないとしました(最判昭46.1.26)。現在は、民法899条の2第1項が、遺産分割によるかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分は対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めています。
判例は、分割後も共同相続の外観を信頼して第三者が権利を取得することは多く予想されるので、分割後の第三者との関係では、分割によって新たな物権変動が生じたのと同視すべきだと考えました。
【最判昭46.1.26 判決理由】
そして、さらに、遺産分割後においても、分割前の状態における共同相続の外観を信頼して、相続人の持分につき第三者が権利を取得することは、相続放棄の場合に比して、多く予想されるところであつて、このような第三者をも保護すべき要請は、分割前に利害関係を有するにいたつた第三者を保護すべき前示の要請と同様に認められるのであり、したがつて、分割後の第三者に対する関係においては、分割により新たな物権変動を生じたものと同視して、分割につき対抗要件を必要とするものと解する理由があるといわなくてはならない。
【最判昭46.1.26 裁判要旨】
相続財産中の不動産につき、遺産分割により権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。
【民法 第899条の2第1項】
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.31
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
振り仮名を除いています。 - このサイトについて
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