2026年 国家一般職 問題11
憲法幸福追求権・プライバシー権
【No. 11】幸福追求権に関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
憲法13条は、国民の私生活上の自由が、警察権などの国家権力の行使に対しても守られることを定めています。判例は、ここから、承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由や、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を導いています(最大判昭44.12.24、最判平20.3.6)。
ただし、これらの自由も無制限ではなく、公共の福祉のために必要な場合には相当の制限を受けます。そこで判例は、問題の情報や事実がどれだけ他人に知られたくない性質のものかと、撮影・利用・公表をする側の目的、必要性、方法とを比べて結論を出しています。
【日本国憲法 第13条】
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
1.正答
警察官が正当な理由なしに個人の容貌等を撮影することは、憲法第13条の趣旨に反し許されないが、現に犯罪が行われ又は行われたのち間がないと認められ、証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われる場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容貌等の撮影が許容される。
要点要件を満たせば、本人の同意や令状がなくても、警察官は容貌等を撮影できる。
妥当である。正当な理由のない撮影は13条の趣旨に反し許されませんが、3つの条件(現行犯性、証拠保全の必要性・緊急性、方法の相当性)を満たす撮影は、本人の同意も裁判官の令状もなくても許されます(最大判昭44.12.24)。
判例は、撮影されない自由も公共の福祉のため必要な場合には相当の制限を受け、犯罪の捜査はその公共の福祉のための警察の務めだと重く見ました。そのため、3つの条件がそろう限られた場面では、令状なしの撮影を認めています。
【最大判昭44.12.24 判決理由】
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。
2.誤答
個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するが、いわゆる住基ネットにより行政機関が本人確認情報を管理、利用等する行為は、法令等の根拠に基づき正当な行政目的の範囲内で行われていることから、システム技術上の不備等により本人確認情報が第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているか否かにかかわらず、憲法第13条により保障された自由を侵害するものではない。
要点住基ネットは、本人確認情報が開示・公表される具体的な危険がなく、合憲である。
妥当でない。判例は、正当な行政目的の範囲内の利用であることに加え、制度の不備で情報が開示・公表される具体的な危険が生じているともいえないことも理由に、侵害はないとしました(最判平20.3.6)。危険の有無に「かかわらず」が誤りです。
判例は、本人確認情報が、氏名・生年月日・性別・住所など、社会生活で一定の範囲の他者には当然開示される、秘匿性の高くない情報であることを重く見ました。そのうえで、懲戒・刑罰や監視機関などの仕組みから、具体的な危険もないとしています。
【最判平20.3.6 判決理由】
このうち4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,変更情報も,転入,転出等の異動事由,異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので,これらはいずれも,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。
【最判平20.3.6 判決理由】
住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。
3.誤答
医師には救命義務がある以上、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生じた場合には輸血を行うことになるため、患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有しており、その意思を事前に医師に伝えていたとしても、このような意思決定をする権利は、人格権として尊重されるとまではいえない。
要点輸血を伴う医療行為を拒否する意思決定をする権利は、人格権として尊重される。
妥当でない。患者が、宗教上の信念に反するとして輸血を伴う医療行為を拒否する明確な意思を持っている場合、その意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければなりません(最判平12.2.29)。
判例は、医師が医療水準に従った手術をしようとするのは当然だとしつつ、手術を受けるかどうかは患者自身が決めることだと重く見ました。そのため、輸血することがある方針を説明せず、手術を受けるかの意思決定の機会を奪ったことを、人格権の侵害としています。
【最判平12.2.29 判決理由】
本件において、W医師らが、Tの肝臓の腫瘍を摘出するために、医療水準に従った相当な手術をしようとすることは、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者として当然のことであるということができる。しかし、患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。そして、Tが、宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有しており、輸血を伴わない手術を受けることができると期待してVに入院したことをW医師らが知っていたなど本件の事実関係の下では、W医師らは、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には、Tに対し、Vとしてはそのような事態に至ったときには輸血するとの方針を採っていることを説明して、Vへの入院を継続した上、W医師らの下で本件手術を受けるか否かをT自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。
4.誤答
国際空港の周辺地域に居住する住民が、当該空港の供用に伴う航空機の騒音、排気ガス等により、身体に対する侵害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害等の被害を受けている場合、住民の環境権が侵害されていることから、当該空港の供用について、公共性ないし公益上の必要性という理由により住民が当該被害を受忍すべきとはいえず、当該被害及びこれに伴う精神的苦痛に対する損害賠償が過去のみならず将来にわたっても認められる。
要点空港の騒音による将来の損害の賠償請求は、訴えとして不適法である。
妥当でない。判例は、過去の損害の賠償は認めましたが、将来の損害の賠償を求める訴えは不適法として却下しました(最大判昭56.12.16)。環境権を根拠に判断したものでもありません。
将来の騒音被害が賠償の対象になるかどうかは、国がこれから行う騒音対策や、住民一人ひとりの生活事情の変化などで左右されます。判例は、成立するか、いくらかを前もって明確に決められない請求は、将来の給付の訴えで求める適格がないとしました。
【最大判昭56.12.16 判決理由】
本件についてこれをみるのに、将来の侵害行為が違法性を帯びるか否か及びこれによつて被上告人らの受けるべき損害の有無、程度は、被上告人ら空港周辺住民につき発生する被害を防止、軽減するため今後上告人により実施される諸方策の内容、実施状況、被上告人らのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動等の複雑多様な因子によつて左右されるべき性質のものであり、しかも、これらの損害は、利益衡量上被害者において受忍すべきものとされる限度を超える場合にのみ賠償の対象となるものと解されるのであるから、明確な具体的基準によつて賠償されるべき損害の変動状況を把握することは困難といわなければならないのであつて、…
5.誤答
インターネット上の検索サービスにおいて、児童買春に係る逮捕歴に関する記事が表示されている場合、逮捕され、有罪となった本人にとって、当該逮捕歴は、他人にみだりに知られたくない個人のプライバシーに属する事実であり、その事実を公表されない法的利益は検索事業者の表現の自由に優越することが明らかであることから、本人は、検索事業者に対して、当該記事が掲載されたURL等の情報を検索結果から削除することを要求することができる。
要点児童買春の逮捕歴は今なお公共の利害に関わり、検索結果から削除できない。
妥当でない。判例は、公表されない法的利益と、検索結果として提供する理由に関する諸事情とを比べ、前者が優越することが明らかな場合に削除を求められるとし、本件では削除を認めませんでした(最決平29.1.31)。比べる相手を「表現の自由」とし、優越が明らかだとする点が誤りです。
判例は、検索結果の提供が検索事業者の表現行為という面を持ち、ネット上の情報流通の基盤でもあることを重く見ました。削除はその両方を制約するので、優越が明らかであることまで求めています。
【最決平29.1.31 判決理由】
そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
【最決平29.1.31 判決理由】
…児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和8年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.11
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
- このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
読んで分かったら、次は解いて確かめませんか
解説を読んで分かったつもりでも、自分で解くと迷うことがあります。読み直すより、解いて思い出すほうが記憶に残りやすいとされています。
- 国家一般職・国家総合職の憲法・民法・行政法を、2023〜2026年の173問から解けます。
- 試験通りの5択でも、選択肢を1つずつ判断する形式でも解けます。
- 年度や分野を選んで、続けて解けます。
登録しなくても、すぐ解き始められます。