2025年 国家総合職 問題1
憲法表現の自由
【No. 1】憲法第21条に関する次の記述のうち、判例に照らし、最も妥当なのはどれか。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
1.誤答
公務の中核を担う庁舎等において、政治的な対立がみられる論点について集会等が開催され、特定の政策等を訴える示威行為が行われると、あたかも市が特定の立場の者を利しているかのような外観が生じ、これにより外見上の政治的中立性に疑問が生じて行政に対する住民の信頼が損なわれ、ひいては公務の円滑な遂行が確保されなくなるという支障を生じさせないことを目的として、市長が庁舎等の一部である広場の使用を制限することが必要かつ合理的なものとして是認されるのは、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止することの必要性が集会の自由を保障することの重要性に優越している場合でなければならず、かつ、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である。
要点庁舎前広場での示威行為の禁止は、較量の結果、必要かつ合理的な限度にとどまる。
妥当でない。判例は、庁舎前広場での集会に係る示威行為を禁じる規定の適用について、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容・性質、制限の態様・程度とを較量して判断し、違憲でないとしました(最判令5.2.21)。「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」まで求めていません。
判例は、庁舎が主に公務の用に供する施設で、集会のための施設や道路・公園とは性格が違うことを重く見ました。禁じられるのは庁舎での示威行為だけで、ほかの場所での集会は妨げられないので、制限の程度は限定的だとしています。
【最判令5.2.21 判決理由】
…このような自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決めるのが相当である…
【最判令5.2.21 判決理由】
もっとも、普通地方公共団体の庁舎は、飽くまでも主に公務の用に供するための施設であって、その点において、主に一般公衆の共同使用に供するための施設である道路や公園等の施設とは異なる。
2.正答
一定の表現活動をヘイトスピーチと定義した上で、これに該当するものを規制する条例について、当該ヘイトスピーチを抑止する必要性が高いこと等を考慮すると、当該条例の各規定の目的は合理的であり、制限の態様及び程度においても、事後的な拡散防止措置等の対象となるにとどまること等からすれば、当該各規定による表現の自由の制限は、合理的で必要やむを得ない限度にとどまり、当該各規定は、憲法第21条第1項に違反するものということはできない。
要点ヘイトスピーチの拡散防止措置等を定める大阪市の条例は、憲法に違反しない。
妥当である。判例は、条例の目的(ヘイトスピーチの抑止)は合理的で正当であり、制限は過激で悪質性の高い差別的言動に限られ、事後的に拡散防止措置等の対象となるにとどまるとして、合理的で必要やむを得ない限度の制限であるとしました(最判令4.2.15)。
判例は、制限される表現が、特定の人々を社会から排除するなどの不当な目的で差別意識や憎悪をあおるものに限られることと、措置に応じない者への制裁や、氏名を特定する強制の手段がないことを重く見ています。
【最判令4.2.15 判決理由】
また,本件各規定により制限される表現活動の内容及び性質は,上記のような過激で悪質性の高い差別的言動を伴うものに限られる上,その制限の態様及び程度においても,事後的に市長による拡散防止措置等の対象となるにとどまる。そして,拡散防止措置については,市長は,看板,掲示物等の撤去要請や,インターネット上の表現についての削除要請等を行うことができると解されるものの,当該要請等に応じないものに対する制裁はなく,認識等公表についても,表現活動をしたものの氏名又は名称を特定するための法的強制力を伴う手段は存在しない。 そうすると,本件各規定による表現の自由の制限は,合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものというべきである。
3.誤答
集会・結社、表現の自由を規制する法令の規定について合憲限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現行為等が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準を、その規定自体から読み取ることができる場合でなければならないというべきであるから、市の暴走族追放条例の規定をその文言どおりに適用すると、規制の対象が広範囲に及び、憲法第21条第1項との関係で問題があると解さざるを得ない場合には、合憲限定解釈を行って当該条例の有効性を維持すべきではない。
要点暴走族追放条例は、限定解釈をすれば憲法に違反しない。
妥当でない。判例は、条例の規定の仕方が適切でなく、文言どおりに適用すると規制の対象が広すぎることは認めつつ、限定解釈をして規制の対象を本来の暴走族とそれと同視できる集団に限り、違憲でないとしました(最判平19.9.18)。合憲限定解釈を行うべきでないとする部分が誤りです。
判例は、条例の目的規定や他の規定、委任を受けた施行規則の判断基準といった、条例の全体から読み取れる趣旨によって、規制の対象を絞り込めることを重く見ました。
【最判平19.9.18 裁判要旨】
広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号)16条1項1号にいう「集会」は,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団によって行われるものに限定されると解され,このように解釈すれば,同条例16条1項1号,17条,19条は,憲法21条1項,31条に違反しない。(補足意見及び反対意見がある。)
【最判平19.9.18 判決理由】
このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨,さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば,本条例が規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,…
4.誤答
公立図書館の図書館職員である公務員が、閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によってその思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものであるところ、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する当該利益は、憲法第21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるものであり、同条により保障されると解するのが相当である。
要点著作者が図書館で思想等を伝達する利益は、法的保護に値する人格的利益である。
妥当でない。判例は、公立図書館で著作物が閲覧に供されている著作者の利益を、法的保護に値する人格的利益としました(最判平17.7.14)。憲法により直接保障される権利そのものとはしていません。思想の自由・表現の自由が基本的人権であることは、人格的利益と認める理由として「かんがみ」られたものです。
判例は、公立図書館が住民に資料を提供する公的な場であり、著作者にとっても思想や意見を公衆に伝える公的な場であることを重く見ています。
【最判平17.7.14 判決理由】
他方,公立図書館が,上記のとおり,住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは,そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。したがって,公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは,当該著作者が著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして,著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると,公立図書館において,その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり,…
5.誤答
公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、当該批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その論評自体が主要な点において真実であること又は相当であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠く。
要点公務員への論評は、前提の事実の主要な点が真実と証明されれば違法性を欠く。
妥当でない。真実であることの証明が求められるのは、論評の前提としている事実が主要な点において真実であることです(最判平元.12.21)。「論評自体が主要な点において真実であること又は相当であること」とする部分が誤りです。
判例は、公共の利害に関する事項について自由に批判・論評することを、表現の自由の行使として尊重されるべきものと重く見ました。論評は意見の表明なので、証明の対象を前提の事実に絞り、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱したものだけを違法としています。
【最判平元.12.21 判決理由】
公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和7年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.1
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 振り仮名を除いています。
- このサイトについて
- 人事院など試験の実施機関とは関係のない、非公式の問題集です。解説は当サイトが作成しています。出典と著作権について:利用規約 第6条
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