2024年 国家総合職 問題31
民法相続
【No. 31】相続に関する教授の質問に対する学生A~Eの発言のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(A〜E)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、次のどれかを選びます。
単純承認:被相続人の権利義務を制限なく承継する
限定承認:相続で得た財産の限度でだけ、被相続人の債務と遺贈を弁済する
相続の放棄:初めから相続人でなかったことになる
この選択は、被相続人の債権者(相続債権者)や相続人自身の債権者に大きく影響します。そこで民法は、期間内に限定承認も放棄もしないときや、相続財産を隠すなど債権者を害する行為をしたときは、単純承認をしたものとみなし(921条)、相続人の債権者にも財産を守る手段を用意しています。判例は、財産目録に悪意で偽りを書くような背信的な行為をした相続人には、限定承認の利益を与える必要はないとしています(最判昭61.3.20)。
【最判昭61.3.20 判決理由】
…同法九二四条は、相続債権者及び受遺者(以下「相続債権者等」という。)の保護をはかるため、限定承認の結果清算されるべきこととなる相続財産の内容を積極財産と消極財産の双方について明らかとすべく、限定承認の申述に当たり家庭裁判所に財産目録を提出すべきものとしているのであつて、同法九二一条三号の規定は、右の財産目録に悪意で相続財産の範囲を偽る記載をすることは、限定承認手続の公正を害するものであるとともに、相続債権者等に対する背信的行為であつて、そのような行為をした不誠実な相続人には限定承認の利益を与える必要はないとの趣旨に基づいて設けられたものと解される…
【民法 第921条】
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
(略)
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
A.正答
教 授:相続において、我が国では、相続開始によって被相続人の財産は包括的に相続人に承継されますが、必ずしも相続人が相続したいと考えるとは限りませんね。そこで、相続人に、相続について、「単純承認」「限定承認」「相続の放棄」の中から選択をする自由を保障しています。民法は条文上、これらのうち、どれを原則的な形態としているでしょうか。 学生:単純承認を原則としています。その上で、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として3か月を熟慮期間と定めて、限定承認又は相続の放棄をしたければ、その期間内に家庭裁判所にその旨を申述することを求めています。
要点民法は単純承認を原則とし、限定承認・放棄は熟慮期間内に家庭裁判所に申述する。
妥当である。相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)に限定承認も相続の放棄もしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(921条2号)。何もしなければ単純承認になるので、単純承認が原則です。限定承認と相続の放棄は、その期間内に、家庭裁判所に申述してします(924条、938条)。
限定承認と放棄は、債権者などの利害に大きく関わるので、家庭裁判所への申述というはっきりした形で示させ、期間内に何もなければ単純承認として、相続の関係を早く確定させています。
【民法 第915条第1項】
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
【民法 第924条】
(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
【民法 第938条】
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
B.誤答
教 授:相続人が限定承認や相続の放棄をした後に、相続財産の一部を隠匿した場合は、どのように扱われますか。 学生:一度行った限定承認や相続の放棄の効果には影響がありませんが、相続債権者(被相続人の債権者)から請求があったときは、隠匿した財産を相続債権者に引き渡さなければなりません。
要点限定承認・放棄の後でも、相続財産を隠匿すれば単純承認したものとみなされる。
妥当でない。相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後でも、相続財産の全部又は一部を隠匿したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条3号本文)。限定承認や放棄の効果に影響がないのではなく、単純承認として、無限に被相続人の権利義務を承継します(920条)。
財産を隠すことは相続債権者を害する背信的な行為で、そのような相続人に限定承認や放棄の利益を残す理由はないからです。ただし、その相続人の放棄によって相続人となった者が承認した後は、その者の地位を守るため、単純承認とはみなされません(同号ただし書)。
【民法 第920条】
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
C.誤答
教 授:限定承認をするための手続は、どのようになっていますか。 学生:財産目録を作成して家庭裁判所に提出をし、限定承認をする旨を申述します。なお、共同相続の場合には、限定承認の申述をするかどうかは、各相続人がそれぞれ自由に判断をすることになります。
要点共同相続では、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみできる。
妥当でない。限定承認は、相続財産の目録を作って家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述してする点は、そのとおりです(民法924条)。しかし、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみできます(923条)。各相続人が自由に判断できるのではありません。
通説では、限定承認は相続財産を清算して相続債権者に弁済する手続なので、一部の相続人だけに認めると、清算が複雑になるためと解されています。これに対し、相続の放棄は、各相続人が単独でできます。
【民法 第923条】
(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
【民法 第924条】
(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
D.正答
教 授:相続の放棄がなされると、どのような効果が生じますか。 学生:相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とはならなかったものとみなされます。また、放棄者の子が放棄者を代襲して被相続人を相続することもできません。
要点相続の放棄は代襲原因ではなく、放棄者の子は代襲相続できない。
妥当である。相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。また、代襲相続が生じるのは、被相続人の子が相続の開始以前に死亡したとき、欠格事由に当たるとき、廃除されたときに限られ(887条2項)、相続の放棄は代襲原因に当たりません。
放棄をした者は初めから相続人でなかったことになるので、その者に代わって相続する(代襲する)という関係が生まれません。死亡・欠格・廃除と違い、放棄は、相続人が自分の意思で相続しないと決めるものです。
【民法 第939条】
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
【民法 第887条第2項】
(子及びその代襲者等の相続権)
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
E.誤答
教 授:相続財産が債務超過の場合、相続人が限定承認や相続の放棄をしなかったときは、相続人の固有の財産をもってしても相続債権者に対して被相続人の債務を弁済しなければなりません。この場合、相続人の債権者が不利益を受ける可能性がありますが、相続人の債権者がとり得る手段は民法上用意されていますか。 学生:単純承認をするか、それとも限定承認や相続の放棄をするかどうかは、相続人の自由な意思に委ねられていますし、そもそも債務者の財産が減少するリスクは相続に限られていることではありませんので、相続人の債権者は債務者たる相続人の一般財産の減少を甘受しなければならず、民法上とり得る手段はありません。
要点相続人の債権者は、家庭裁判所に財産分離を請求できる。
妥当でない。相続人の債権者は、相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、家庭裁判所に財産分離を請求できます(民法950条1項)。財産分離とは、相続財産と相続人の固有の財産を分けて清算させる制度です。民法上とり得る手段がないのではありません。
債務超過の相続財産が相続人の財産と混ざると、相続人の債権者が相続人の財産から回収できる分が減ってしまいます。財産分離は、それを防いで相続人の債権者を守るための手段です。
【民法 第950条第1項】
(相続人の債権者の請求による財産分離)
第九百五十条 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.31
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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