2024年 国家総合職 問題1
憲法幸福追求権・プライバシー権
【No. 1】憲法第13条に関するア~エの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。
このページでは、妥当な記述(ア〜エ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
ア.正答
氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである。一方で、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
要点婚姻の際に氏の変更を強制されない自由は、憲法上の人格権の一内容ではない。
妥当である。判例は、氏名は人格権の一内容を構成するとしつつ、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないとし、夫婦同氏を定める民法750条は憲法13条に違反しないとしました(最大判平27.12.16)。
判例は、氏が、婚姻や家族に関する法制度の一部として法律で内容が決められるものであることを重く見ました。そのため、氏についての人格権の内容も、その制度を前提に初めて具体的に捉えられるもので、制度を離れて氏が変わること自体を人格権の侵害とはいえないとしています。
【最大判平27.12.16 判決理由】
しかし,氏は,婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから,氏に関する上記人格権の内容も,憲法上一義的に捉えられるべきものではなく,憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられるものである。 したがって,具体的な法制度を離れて,氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し,違憲であるか否かを論ずることは相当ではない。
【最大判平27.12.16 判決理由】
以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。本件規定は,憲法13条に違反するものではない。
【民法 第750条】
(夫婦の氏)
第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
イ.誤答
患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、輸血への不同意権は自己決定権に由来する権利として認められるものであるが、担当医師が、当該患者の意思を知り、輸血を伴う医療行為を行う可能性を認識しながら、当該患者にその説明をしなかったとしても、ほかに救命手段がない事態に至って輸血したときは、当該患者の自己決定権を侵害したとまではいえず、当該医師は、損害賠償責任を負わない。
要点輸血拒否の意思を知りながら方針を説明しなかった医師は、賠償責任を負う。
妥当でない。判例は、ほかに救命手段がない事態になれば輸血するという方針を説明しないまま手術をして輸血した医師は、患者が手術を受けるかどうかの意思決定をする権利を奪ったとして、損害賠償責任を負うとしました(最判平12.2.29)。判例は、この権利を「自己決定権」ではなく、人格権の一内容としています。
判例は、医師が医療水準に従った手術をしようとするのは当然だとしつつ、輸血を伴う手術を受けるかどうかは患者自身が決めることだと重く見ました。責任の理由は、輸血したこと自体ではなく、説明を怠って決める機会を奪ったことです。
【最判平12.2.29 裁判要旨】
医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
【最判平12.2.29 判決理由】
本件において、W医師らが、Tの肝臓の腫瘍を摘出するために、医療水準に従った相当な手術をしようとすることは、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者として当然のことであるということができる。しかし、患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。そして、Tが、宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有しており、輸血を伴わない手術を受けることができると期待してVに入院したことをW医師らが知っていたなど本件の事実関係の下では、W医師らは、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には、Tに対し、Vとしてはそのような事態に至ったときには輸血するとの方針を採っていることを説明して、Vへの入院を継続した上、W医師らの下で本件手術を受けるか否かをT自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。
ウ.誤答
個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の存在に最も基本的な事柄であって、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑いがなく、また、人間として生存する以上、平穏、自由で人間たる尊厳にふさわしい生活を営むことも、最大限度尊重されるべきものであって、憲法第13条はその趣旨に立脚するものである。自然環境との関係で、このような人格的価値に関わる権利の総体を環境権ということができ、このような環境権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。
要点判例は、環境権を憲法13条に基づく権利として認めていない。
妥当でない。最高裁判所は、環境権を憲法上の権利として認めていません。空港の騒音に悩む周辺住民が、人格権や環境権に基づいて夜間の空港の使用の差止めを求めた大阪国際空港訴訟でも、判例は、民事上の請求としての差止めの訴えを不適法として退け、環境権を認めるかどうかには踏み込みませんでした(最大判昭56.12.16)。
通説では、環境権は、守られる「環境」の範囲や、権利を主張できる人の範囲がはっきりしないため、裁判で直接使える具体的な権利としては認めにくいと解されています。
【最大判昭56.12.16 裁判要旨】
一 民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用の差止めを求める訴えは、不適法である。
エ.正答
酒税法の規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法第13条に違反するものではない。
要点自己消費目的の酒類製造を処罰する酒税法の規定は、憲法13条に違反しない。
妥当である。判例は、自己消費目的の酒類製造まで免許の対象とし、無免許の製造を処罰しても、憲法13条に違反しないとしました(最判平元.12.14。どぶろく裁判)。
判例は、酒税が国の重要な財政収入で、自己消費目的の製造でも放任すれば酒税の徴収確保に支障が出ることを重く見ました。そのうえで、規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白かどうかという、ゆるやかな基準で審査しています(判決は、租税の立法についての大法廷判決の趣旨を引いています)。
【最判平元.12.14 判決理由】
しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり(昭和二八年(あ)第三七二一号同三〇年七月二九日第二小法廷判決・刑集九巻九号一九七二頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、…
この問題について
- 出典
- 人事院「令和6年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)専門試験(多肢選択式)(法律区分)」No.1
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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