2023年 国家一般職 問題11
憲法表現の自由
【No. 11】表現の自由に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、妥当なもののみを挙げているのはどれか。 (参考) 刑法 (名誉毀損) 第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 〔第2項略〕 (公共の利害に関する場合の特例) 第230条の2 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 〔第2項以下略〕
このページでは、妥当な記述(ア〜オ)を選んで判定します。
解説
解答すると、正解と解説が表示されます。
ア.誤答
屋外の公共用物利用の規制に関し、管理上の必要から、管理者がメーデーのための皇居外苑使用許可申請を不許可とした処分は、管理権の適正な運用を誤ったものであり、憲法第21条に違反する。
要点メーデーのための皇居外苑の使用不許可処分は、憲法21条に違反しない。
妥当でない。判例は、使用不許可処分は、管理権の適正な運用を誤ったものでも、表現の自由自体の制限を目的としたものでもなく、憲法に違反しないとしました(最大判昭28.12.23)。訴えの利益がないとしたうえで、念のため示した判断です。
判例は、約50万人が長時間外苑の全域を使えば、公園が著しく損壊し、一般の国民の利用が全く妨げられることを重く見て、管理上の必要から使用を許さないのは管理権の範囲内のことだとしました。
【最大判昭28.12.23 判決理由】
されば同条に基いた本件不許可処分は、厚生大臣がその管理権の範囲内に属する国民公園の管理上の必要から、本件メーデーのための集会及び示威行進に皇居外苑を使用することを許可しなかつたのであつて、何ら表現の自由又は団体行動権自体を制限することを目的としたものでないことは明らかである。ただ、厚生大臣が管理権の行使として本件不許可処分をした場合でも、管理権に名を籍り、実質上表現の自由又は団体行動権を制限するの目的に出でた場合は勿論、管理権の適正な行使を誤り、ために実質上これらの基本的人権を侵害したと認められうるに至つた場合には、違憲の問題が生じうるけれども、本件不許可処分は、既に述べたとおり、管理権の適正な運用を誤つたものとは認められないし、また、管理権に名を藉りて実質上表現の自由又は団体行動権を制限することを目的としたものとも認められないのであつて、そうである限り、これによつて、たとえ皇居前広場が本件集会及び示威行進に使用することができなくなつたとしても、本件不許可処分が憲法二一条及び二八条違反であるということはできない。
イ.誤答
表現行為の事前抑制は、事後制裁の場合よりも広汎にわたりやすく、濫用のおそれがある上、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられることから、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法第21条の趣旨に照らして、およそ許容されない。
要点表現行為の事前抑制は、厳格かつ明確な要件の下でのみ許容されうる。
妥当でない。判例は、表現行為に対する事前抑制は、検閲を禁止する憲法の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるとしました(最大判昭61.6.11)。およそ許容されないとしたのではありません。
前半の、事前抑制が広く及びやすく、濫用のおそれがあり、抑止的効果が大きいという点は、判例が述べる理由です。判例は、この理由から許される要件を厳しく限りました。例えば、公務員などへの批判の事前差止めは原則として許されず、真実でないことなどが明白で、重大で著しく回復困難な損害のおそれがある場合に限り許されます。
【最大判昭61.6.11 判決理由】
表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。
ウ.正答
報道のための取材の自由は、憲法第21条の精神に照らして十分尊重に値するものであるが、もとより何らの制約を受けないものではなく、例えば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることがある。
要点取材の自由は、公正な裁判の実現のためにある程度の制約を受ける。
妥当である。取材の自由も十分尊重に値しますが、何らの制約も受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けます(最大決昭44.11.26)。
判例は、公正な刑事裁判の実現は国家の基本的要請で、刑事裁判では実体的真実の発見が強く求められることを重く見ました。そのうえで、取材フィルムの提出命令の可否は、証拠としての必要性と、取材の自由が妨げられる程度などを比べて決めるとしています。
【最大決昭44.11.26 判決理由】
しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。 本件では、まさに、公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。
エ.誤答
あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法(当時)の規定による広告制限は、虚偽、誇大にわたる広告のみならず、適応症に関する真実、正当な広告までも全面的に禁止するものであるから、国民の保健衛生上の見地から公共の福祉を維持するためのやむを得ない措置ということはできず、憲法第21条に違反する。
要点あん摩師等法の広告制限は、公共の福祉のためのやむを得ない措置で合憲である。
妥当でない。適応症の広告も許さない広告制限は、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためのやむをえない措置として是認され、憲法に違反しません(最大判昭36.2.15)。
判例は、広告を無制限に許すと、患者を引き寄せようとして虚偽誇大に流れやすく、一般大衆を惑わし、適時適切な医療を受ける機会を失わせるおそれがあることを重く見ました。一定の事項以外の広告の禁止は、この弊害を未然に防ぐためにやむを得ないとしています。
【最大判昭36.2.15 判決理由】
しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。
オ.正答
私人の私生活上の行状であっても、私人の携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法第230条の2第1項にいう「公共の利害に関する事実」に当たる場合がある。
要点私人の私生活上の行状も、「公共の利害に関する事実」に当たる場合がある。
妥当である。私人の私生活上の行状でも、携わる社会的活動の性質や社会への影響力によっては、その活動を批判・評価する一資料として、「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たる場合があります(最判昭56.4.16)。
230条の2は、名誉の保護と表現の自由を調和させるための規定です。判例は、宗教団体の会長が信徒や社会一般に大きな影響を与える立場にあったことを重く見て、その私生活上の行状も公共の利害に関する事実に当たるとしました。
判決の「公共ノ利害ニ関スル事実」は、平成7年の改正(表記の平易化)前の言葉です。また、問題文の(参考)にある名誉毀損の刑の「懲役若しくは禁錮」は、令和7年6月施行の改正で、いまは「拘禁刑」です。
【最判昭56.4.16 裁判要旨】
一 私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。
【刑法 第230条の2第1項】
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
この問題について
- 出典
- 人事院「令和5年度 国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)専門試験(行政区分)」No.11
人事院の試験問題を、公共データ利用規約(第1.0版)に基づいて加工し、掲載しています。 - 本試験から変えた点
- 本試験は、妥当な記述の組合せ(1〜5)から1つを選ぶ問題です。このページでは、妥当な記述を直接選んで判定します。
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